狂科学者の御披露目ぱーてぃー(2)
「国王陛下よりご紹介に与った。ハルト・サイバストルだ。以後宜しく。」
そう堂々と言い切ったハルト。
その淡々とした態度は周囲の高位貴族達を混乱へと陥れる。
まるで現状に興味を感じていない、つまらないものを見下すようなその目付き。
商人の息子から公爵という貴族内で最高の地位を得たにも関わらず、当然の結末だと言わんばかりに微塵も揺るがぬその立ち居振舞い。
かといって傲るわけでもない、感情の乗らぬ声色。
生来の整った顔つきがその効果を増大させ、貴族達にプレッシャーを与える。
その姿は歴史の古い貴族のみが醸し出せるそれであり、下手な貴族よりも貴族らしい威厳に満ち溢れていた。
決してぽっと出の新興貴族ごときが出せるものではない。
理解ができない。
歯の奥になにかが挟まっているような違和感。
何故自分はこんな成人すらしていない少年に恐怖しているのか。
どのような人生を送ればこの少年のような雰囲気を出せるのか。
何故、このような少年が生まれるのだ。
何故、これ程の存在が公爵に......
そこまで考えてハッとする。
違和感の正体に気付き、愕然とする者達。
以前よりうっすらながら察しており、納得する者達。
そもそも、
何故この少年が公爵位などに平然と収まっているのか。
見合っていない。
圧倒的に地位が足りない。
その未だ伸びきっていない小さな背を収めるのにすら、足りない。
そして、
目の前の少年を公爵位という牢獄に封じ込めて見せた国王は何者なのか。
畏怖とともに、沸き上がってくる感情は、
―――陛下は何を考えている?―――
そんな不敬な感情。
この化け物であれば、そんな曖昧な牢の鉄格子など、容易く破って見せるだろう。
今我々を見ている表情そのまま、平然と抜け出してくるに違いない。
そんな感情を込めて陛下の方を伺えば、
「......気楽にすると良い。これはお前の為の宴なのだからな。」
「こんなに鼻への刺激が強い場所だとは思わなかったぞ?」
「はははっ、お主も直に慣れる。」
「メルガルト公の言う通りだ。」
「嘘つけ。」
「珍しく君に共感できそうだ。この匂いはね......。」
「そうですね、私もあまり......」
「ハル君? 大丈夫?」
「......まあ、嗅覚を落として何とかといったところだ。」
なんとまあ和気藹々な団欒がそこにあった。
瞬間、目が飛び出しそうな勢いで目を剥き驚く貴族達。
国王、王子、王女、メルガルト公爵とその娘、そして件のハルト·サイバストル。
国のトップに君臨する王族と公爵家が、不穏さしかない彼の者と語り合っているのだ。
まるで付き合いの長い友人のように、気安く。
先程まで濃厚な威厳を垂れ流しにしていた彼の者も、苦々しげにだが年相応の表情を見せている。
そして理解した。
ハルト·サイバストルは異常であるが、感情のない獣ではない。
王家とも交流があり、何らかの交渉もあったのだろう。
少なくともこの国に仇なすことはないに違いない。
そう結論付け、それを成した国王へ畏敬の念を向け、評価を上方修正していく。
今代の陛下は国史上最高の賢王である。
古今東西、英雄を従えた王はあれど、
この少年はこの陛下にしか従えられぬと。
だが貴族達の間に激しい誤解が浸透しつつあることにハルトは気づかない。
その脳内はこのくだらない宴をさっさと終わらせたい気分で一杯であるが故に。
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