狂科学者のセンス
「よし、始めるか。」
朝食を終えたハルトは地下に来ていた。
実験室の扉を開け、中に入る。
ベッドに入っている実験体から何本ものコードを引き抜き、その体を一つ一つカプセルへと収めていく。
中では生命維持機構が作動し、実験体の生命活動を維持し始める。
四十体弱の実験体を全て収め終えると、部屋の天井が上へ開き、実験場への道が開ける。
実験場のど真ん中に空いた大穴に沢山の紐が垂らされ、そこにハルトがカプセルに付いた金具を一つ一つ掛けていく。
「あげて良いぞー!」
そうハルトが叫べば、巻き取られ、地を離れ、上昇していくカプセル達。
全てのカプセルが上に引き上がったことを確認し、徐に手を床へと押し当てれば、構造を崩され、ただの金属塊へと戻される各装置と内装。
長さ三メートル、直径一メートルはあろうその円柱に申し訳程度に生えている取手を掴み、無造作にヒョイと持ち上げるハルト。
そのまま膝を曲げ、筋繊維の蓄える膨大な弾性エネルギーを解放すれば、
ズン、と重い音を立てて凹む地面。
そして跳び上がる五十キロ程の有機物と数トン程の金属塊。
それらは穴を飛び越え、地上へと姿を表す。
「ふいー。」
そして疲れたかのように息を吐きながら、かきもしない額の汗を拭い、一仕事を終えたかのような雰囲気を醸し出す。
「......で、っと。」
金属塊に手を当て、魔力を流し込めば、研究所に纏わりつくように伸び、施設全体を被い、補強する籠となる。
職員達とユアに頼み、家具や実験道具などを粗方取り出した後、施設全体に仕込まれた巨大な回路を通して研究所全体へと干渉していく。
適当な量の資材で一般的な二階建ての家屋を建て、中に家具等を運び込ませる。
魔力炉も一台設置し、『充填屋』の業務が行えるよう小さめだが、店舗も建て、セキュリティを構築していく。
そして残る大量の資材をまとめ、直方体に成型し、巨大なトラック擬きへと造形していく。
一番上には一面に魔力炉の光吸収ユニットが敷き詰められ、黒く覆われる。
いや、四角いだけで窓も何もないところを見る限りでは、車輪が付いた箱と言うべきなのかもしれない。
実際には一周ぐるっと高性能のカメラを搭載し、常時周囲を警戒、
更には不審者が居れば即時抹殺するため、存在値によって強化された素材すらも消し飛ばす超高出力のエーテルキャノンが獲物を求めて巡回し、
止めとばかりに虚数属性の魔力を用いた対魔法防壁まで展開するなど、一国の城を遥かに上回るセキュリティレベルを誇る要塞だが......残念なことに、見た目は完全に小学生の自由工作で作られた「車のような何か」であった。
それを見る職員達の視線も何処か生暖かい。
しかし作った張本人であるハルトはと言うと......
「良し!」
......何が良しなのかは謎だが、「車のような何か」を見上げ、満足げに首を振ってみせるのであった。
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