狂科学者は諦める
「さて......と。」
完成したバスケットボール大のDNA記録型記憶装置を抱え、立ち上がるハルト。
現在研究所でも記憶容量を二倍に増築しているので、これが届くまでの間は持つだろう。
フレームに刻み込んだ魔法陣の機構が回路を増設するだけで機能拡張を行えるため、先程指示を送っておいたのだ。
今頃向こうでは助手達が素材を運び込む為に大騒ぎしている頃だろう。
この新型記憶装置は後で向こうに送っておくか。
「ハルトさん?」
聞き慣れた声に顔を向ければ、王女がいた。
最近この部室への出入りを解禁してからはたびたびやってくるようになったが......いや、解禁する前から押し入ってきてたか。
「どうした?」
「お父様が話をしたいと。......爵位授与の話だそうです。」
あー
「パスで。」
「ダメです。」
にっこりと笑う王女。
「お前やっぱり国王と共謀しているよな。」
「お父様は兎も角、私はハルトさんが好きだからやっているんです。」
そう若干顔を赤らめながらもはっきりと言い切る王女。
しかし、
「......いくら好きだからといって相手を裁判で有罪にしたり、軟禁するのは良くないと思うんだが?」
「裁判を起こしたのも判決を下したのもお父様ですよ? 私はただお父様の前でハルトさんと暮らしたいと独り言を言っただけです。」
「......知っているか? 世の中ではそれをお願いすると言うんだぞ。」
「いいえ、独り言です。」
確信犯もここまで来るといっそ清々しいな。
「......それで、どれくらいまでに行けば良い?」
頑なに認めようとしない王女に、これ以上の詮索は無用と話を変えるハルト。
「今からです。学園には既に話を通してあります。」
「そいつはまた随分とせっかちだな。」
「馬車は既に手配してあるので行きましょう。」
うへぇ......馬車か。
あれだけはいまだに慣れない。
匂うし、結構揺れるんだよなぁ。
五感は完全に制御できるが、それでも前世の記憶が抵抗感を抱かせてくる。
それゆえ、ハルトは未だに馬という動物に慣れきっていなかった。
己の足で走った方が速いし楽であることも関係しているのかもしれない。
なんせ今のハルトは魔力で強化しなくともスポーツカー並みのスピードで延々と走っていられるのだ。
状況が落ち着いたら自動車に類する移動手段も研究してみるか。
そう決意し、王女についていくハルトであった。
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