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狂科学者のプレゼントは埋め込み式

 「......そろそろ拡張するか。」



 その一言からそれは始まった。


 

 最近、ハルトは一つの問題を抱えていた。


 どんな問題かというと、研究所にあるメインコンピューターの容量不足だ。

 現在時点でも一メートル四方に数ペタバイトという、前世のスパコンですら不可能な回路密度を超微細な魔法陣の三次元集積回路によって達成しているが、それでも積もり積もった分子レベルのスキャンデータを保存するには少々心許無くなってきているのだ。



 というわけで、



 「エクサバイトまで行ってみるか。」



 エクサバイト。

 前世の基準で考えれば、1テラのHDD100万台分だ。

 今世の研究所にあるものの1000倍の容量である。



 

 物理的にやろうと思えば現在あるメインコンピューターを縦横斜めに十倍ずつ拡張していけば良いのだが。


 しかし生憎だがエクサバイト級の記憶装置を制御するシステムを俺は知らない。

 そこら辺は手探りで調整するしか無いだろうな。


 

 まあ、それも今の俺にかかれば数時間で終わるだろうがな。

 二進法的な概念を学習したお陰で感覚的な調整を加えられるのだ。


 

 

 しかしそれではやたら大きくなってしまうし、何より芸がない。


 新しいやり方を模索するとしよう。



 と、そこまで考えたところでふと手元から顔を上げるハルト。


 

 「どうした?」

 そう目の前に立つユアへと話しかける。


 

 「......? なんでもないよ?」


 そうか。


 いつものように俺を見に来ただけのようなのだろう。

 そう結論付けたハルトはそのまま視線を手元に落とす。



 しかし、なにかを思い出したかのように顔を上げ、



 「そうだ、コレをやる。」




 

 服のポケットから小さな網のような物体を取り出し、ユアへ放り投げる。

 それを人外の動体視力を持ってキャッチするユア。




 「......? これは何?」

 「補助脳だ。」

 不思議そうな声でそう聞くユアに、短くそう返すハルト。

 

 「ほじょのう?」

 「ああ。これを使えば計算を代行させられたり、データのダウンロードがやり易くなったりと色々便利になる。謂わば第二の脳だ。」

 


 ハルトの側頭部にも埋め込まれ、肉体と同化しているそれは、ハルトの脳を介さず完全な状態で魔法陣へ数値を代入することに役立っている。

 脳にダウンロードすると脳の構造上どうしても抽象化され、データが破損してしまう。

 それを避けるため、全身で魔法生物を働かせているハルトも補助脳を活用している。

 魔法生物で論理回路を組んでも良いが、魔法生物はその特性上、特殊な容器に入れなければ周囲へ働きかけてしまうため、不安定で情報の完全な保存には向いていないのだ。


 ユアは今まで脳を迂回した形に魔法生物を収束させ、データを代入していたが、それでは無駄が多いし何よりデータの詳細を確実に保存できない。

  

 よって完全に固定された回路を埋め込む方が単純かつ便利なわけだ。


 


 「どうやって使うの?」

 「首でも頭でも顔でも何処でも良いが......好きな場所に押し付けて魔力を送れ。後は自動で埋め込まれる。まあ中枢神経系に近ければ問題ない。」


 「......これってハル君の耳の後ろにあるやつだよね?」

 「そうだ。」

 

 原点となるマジックサイトを小型化して埋め込んだ際必要だった骨伝導機構の名残だからな。

 今は直接内耳神経に送り込んでいるから要らないが、何となく場所はそのままにしているのだ。




 それにしても......懐かしいな、マジックサイト。

 確かメインコンピューターの次に製作したデバイスだった。

 今ではMOの域まで機能を集積、圧縮されて薄っぺらい補助脳となっているが、あれが今の全ての原点となった作品といっても過言ではない。

 現在でもあの頃発見し、確立した数多の理論は使われている。



 

 少し視線が遠くなり、ふと昔を懐かしむハルト。


 「ハル君? 着けるね?」

 「ああ。」



 

 後ろに手を当て、自らの首に補助脳を押し付けるユア。

 その手からは魔力が溢れ、補助脳に予め設定された機能を呼び醒ます。


 そして泥に沈む石のようにズブリと皮下へ沈む補助脳。

 沈んだあとは綺麗に修復され、傷の一つもない。



 「これで良いの?」

 「ああ。少し待て。今から設定をする。」


 そう言いながらユアの首へ手をあて、魔力の信号を流し込んでいく。

 ただ回路を刻まれていただけの補助脳は命令を与えられ、動き出す。

 主人の魔力を認識し、その体内の魔法生物と接触を図る。



 「......あ。ハル君、このパスワード入力ってのは......。」

 「今は暫定で魔法生物のシリアルナンバーが設定されている。後で好きに変えられるから安心しろ。」

 「わかった。......あ、接続できたよ。」


 

 瞬間、ユアの眼球内で光が瞬き、その瞳が明滅する。


 「わぁ......。」




 そして笑顔とともに大きく見開かれる両目。



 「どうだ?」



 「すごい......。」

 


 どうやら現れた新しい視界に興奮しているようだ。


 まあ補助脳は論理的な演算に特化しているからな。

 分散し、やや不安定な魔法生物を統率する補助も行っている。

 今まで少しぼやけていたウィンドウがはっきりとしているはずだ。

 それに......




 「補助記憶領域ができただろ?」

 「うん。ありがとう!」



 そこには脳から魔法生物によってデコードされた記憶が二進数にエンコードされて蓄えられる。

 人間の脳の容量は一ペタバイト......十三年ちょい分の映像を記録できるらしいし、補助が受け持つのはその中の微々たる量だが、それでも数テラ程度は容量がある。

 ユアならばうまい具合に活用してくれるだろう。




 「あ......ねえ、ハル君? これって......」


 何かに気付いたかのように真面目な顔で聞いてくるユア。



 「どうした?」

 「体の感覚も記録、再生できるんだよね?」


 まあ、

 「魔法生物が収集しているデータをそのまま流せば普通にできると思うぞ。」


 だからといって何が出来るわけでもないが。



 ......いや、できるのか?

 でなければこのような質問は来ないはずだ。


 何だ?

 





 「じゃあ、ハル君......一緒に寝よ?」

 瞬間、納得するハルト。



 



 成る程。

 そういう使い道もあるにはある......か。



 しかしそれをして何が良いのやら。


 女の考えていることはよく分からんな。



 心のなかで首をかしげるハルト。




 次の日、学園で怪しげに笑うユアが目撃され、

 それを見た女学生が気を失ったとかなんとか。


 取り敢えず、ハルトはいつも通りの学園生活を送っていた。

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