狂科学者の叔父と右腕
「お......る......か?」
叔父の声という外部からの刺激に意識が浮上する。
「大丈夫かい?」
......おっと寝てしまったか。
思ったよりも精神的な疲労があったようだ。
「すいません......寝てしまったようです。腕はどうですか? 痛みはありますか?」
「思ったような痛みは無いんだけど......」
そう言ってなんとも言えない顔をする叔父さん。
何か異常でもあったのか?
「いや、今まであった力をいれる感覚がないんだよね。」
あ、それか。
「その感覚なら義手と繋げることで戻りますよ。まだ義手を取り付けていないので感じないだけです。」
そう説明して、
「実物は初めて見せますね、これが叔父さん用に作った義手です。」
そう言って木箱から出したのは、まるで実物のような腕。なめしたドラゴンの被膜で作られた、肌色の外装に覆われたその義手は、その下にある武骨なパーツをやわらかく覆い隠す。
フレームには世界で二番目に頑丈な金属であるカーボリウムという真っ黒な謎物質を採用。多孔質構造に加工することで柔軟性と耐衝撃性を高めてある。それで作られた骨格をすべてアラクネの糸で接合し、関節部分には衝撃吸収用にドラゴンの軟骨を挟んでおく。そして改良済みの人工筋肉を取り付けて上にドラゴンの鱗を成型し、感覚用魔法陣を各所にびっしり刻んだ外殻を取り付けつつ配線する。大体百数十本程配線したのでこれが一番大変だった。最後に外殻をはめ込んで接続端子を作り、外装を取り付ければ完成だ。要所要所でサイズが合わなかったりして手間取ったのもあり、丸一日かかってしまったぜ。
「......まるで本物のようだ。」
そりゃそうだろう。
「できる限り自然に見えるように改良を積み重ねましたから。」
こっちは丸四日ぐらいかかった。途中で機構の見直しをしなかったらどれだけかかっていたことやら。人工筋肉の出力向上もなかなか大変だった。楽しかったけど。
本当はギミックも仕込みたかったけど......技術力が足りなかった。無念。
何はともあれ装着するか。
「叔父さん、ちょっと失礼しますね。」
そう断ってから取り付け用のベルトを叔父の胸部に巻き付け、腕の残りに義手をはめ込んで、飛び出た数本の肩周りを補助する人工筋肉の端をボルトで固定する。
「では叔父さん、腕を曲げ伸ばししてみてください。」
そこは残っている腕の筋肉と連動しているので一応動くはずだ。
「こうかい? ......おおっ!!??」
少しぎこちないがちゃんと曲げ伸ばしされる肘関節。
「しばらく腕の重みがなかったから不思議な感覚だよ。ところで、指はどうやって動かすんだい?」
「まだ動かせませんよ。練習しないと叔父さんの体内に埋め込んだ魔道具が叔父さんの意思を読み取れませんから。」
「その練習内容を教えてくれないか?」
「もちろんいいですよ。取り合えず左手で義手のいろんなところを押してみてください。そうすると感覚が感じられるようになると思います。」
「本当だ......不思議な感覚だね。ないはずの手の感覚がある。今だったら手だけ石に代わってしまったと言われても信じられるよ。」
呑み込みが早いな。やっぱりモルデモート一世じゃあ知能が低いしコミュニケーションが取れないから時間がかかったのか?
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結果的に叔父さんは一日で義手の操作をマスターしてしまった。
まだ細かい指の動きは無理だろうが、そのうちできるようになるだろう。あの義手は完全に人間と同じ様に筋肉を配置してある。それでいて速さと力と耐久性は人の数倍上なのだから不足はないだろ。
動くたびに小さくプシュッと人工筋肉の駆動音が聞こえるのもポイント高い。
そんな高性能かつロマンあふれる義手を装着し、元気を取り戻した叔父さんは、俺に笑顔で代金を押し付け、帰って行った。父さんからもらう予定だったので別に要求してはいないんだけど。
なんとなく革袋の中身を覗いてみると、
「素晴らしい......。」
金貨がどっさり入っていた。多分数千万レアはある。数億円とか間違いなく三歳児に渡す額ではない。
それを見て俺は気付いた。
ドラゴンスレイヤーの稼ぎ、ヤバい。叔父さんの金銭感覚、大丈夫か?
そしてドラゴンの素材を研究できた俺、超ラッキー。




