狂科学者の秘事(1)
「......久しぶりにこっちに来たな。」
「所長? お久しぶりです。なにか御用でも?」
そう言いながらやって来るのはミリア。
俺の研究所で働いている助手の一人だ。
「暫く地下に籠る。指定した機材を持ってこい。」
「分かりました。」
こんなやり取りも久しぶりだな。
暫く研究所の各場所に設置したカメラと義腕だけで研究していたから仕方ないが。
この全身にある人工筋肉やセンサーから送られてくる信号の感覚も新鮮に感じる。
助手に指示を出し、メンテナンス用の台から起き上がって白衣を纏う。
ユアと王女に一日以内に戻ると約束した手前、手早く終わらせなければ。
首の後ろに伸びる魔力供給用のコードを引き抜き、歩き出す。
目指すは地下の実験体達のいる部屋。
階段を下がり、ドアの前で手を翳せばプシュッという音と共にスライドし開く扉。
その奥にはベッドに拘束され、栄養を繋がれたチューブから供給され、排泄物用の人工肛門にも管が取り付けられ、寝返りを打たなくても問題ないようゆっくりと横回転を加えられている被検体達の姿があった。
その年齢、性別は様々だが、成人男性が中心で、老人や幼い子供は特にいない。
彼等の状態を軽く見回ったハルトは、魔力の信号を飛ばし、手術の準備を開始する。
緩やかに回転していた彼等は上を向いた状態で止まり、上から麻酔用のマスクが降り、麻酔をかけられていく。
最初の頃は抵抗も見られたため、顎と頭部を拘束する必要があったが、今はもうそのような気力は残っていないようですんなり眠りについて行く。
「さて、始めるか。」
瞬間、ハルトの周囲から義腕が延び、先端のメスで被検体達の胸を切り裂いていく。
刻まれた魔法陣が毛細血管を閉じ、出血を押さえながら切り開かれた胸部に、次に延びてきた先端が魔法陣の義腕が刺さる。
骨組織を変形させ、胸骨を貫く大きな穴を開けていく。
その穴から覗く、力強く拍動を続ける心臓。
そこに脇から伸びた第三の義腕が適切な大きさに整えられた魔石を置き、その上から元通りの状態へと骨組織と皮膚を修復していく。
そして、
「はい終了。」
手術は終了した。
体内の麻酔成分を分解し、被検体達の覚醒を促す。
どの様な結果になるのだろうか。
端末特有のややぎこちない表情でほくそ笑むハルト。
そして数分後、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁあぁーーーーー!!??」
一人の検体が、目覚めと同時に狂乱し始めた。
血圧の上昇にともない血管および周辺組織が膨張し、
眼球から血の涙を滲ませ、
噛みきった舌から血を流し、
頑丈な拘束具は悲鳴を上げ、
過剰な刺激に肉は断裂する。
そんな激痛に苛まれ、叫ぶ検体を眺めるハルト。
「......失敗か? まあ......」
そこまで気を落とす必要もないか。
まだ一人目なのだから。
それに原因の究明はまだだ。
案外、こういうところにヒントは隠されているものだし。
それにしても、
「地下室向きの実験だな、こりゃ。」
地上でやるには少々、煩すぎる。
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