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狂科学者は黄昏る

 邪魔者らしいので一時的に外へ出たハルトは、



 「......ああ言ったものの、何処で待つかは決めていなかったな。」


 といってもどこかの部屋に勝手に居座るのは迷惑だろうし。



 

 周囲を見回すが、特に良さげな場所もないので、少々魔法で飛行しながら城内を散策する。




 「......中々眺めが良いな。穴場だったか。」



 そのまま城の中でも一際高い尖塔の縁へ腰掛ける。


 そして周囲を見渡せば、暗闇に目立つ家々の光。

 

 前世の中世では燃料の関係でここまで灯りは普及していなかったらしいが......魔道具、か。

 どこか前世の夜道を彷彿させる雰囲気に細い目を更に細くする。





 魔力




 これ程便利なエネルギーがあると言うのに、何故この世界の住人は活用しないのか。



 人は怠ける種族だ。

 楽する環境作りにはどこまでも貪欲な種族。


 その欲が蒸気機関を発明し、資本主義を構築し、現代的な自動化社会を構築していったといっても過言ではないだろう。



 それなのに、


 世界を跨いで見ればどう言うことか。


 この世界の人類は魔力と言うエネルギーの次元的なアドバンテージがあると言うのに、発展を止めてしまっている。


 ガスも水道も電気も必要ない。

 全ては魔力で賄えると言うのに、何故余裕が生まれないのか?


 



 ......ここからはあくまでも予想に過ぎないが。



 思考できる人間が少ないのだろう。


 この国の王は良い政治をしている。

 俺の見てきた限りではあるが、この国には活気がある。


 


 ......しかし、

 学園で貴族家の子供達を見た感じ、貴族達は教育を受けているだけあって、賢い。


 しかし賢いと言ってもベクトルが少し違い、狡賢い者が多い。

 

 いかに税収を増やすか。

 いかに裕福な生活を送るか。

 いかに横と上へのつながりを増やすか。


 搾取、散財、賄賂。




 多くの貴族としては当然であろう。

 見栄を張り、豪遊し、派閥を作る。


 それが彼らの大まかな生き方であり、そう教育されてきているのだろう。


 


 それを否定する気はないが、そこには頻繁に欠ける思想が一つある。



 人間の行動原理に関する思想が。


 人は有限であり、

 快楽を求めて生きる。

 余裕が無ければ生きる事が雑になり、気力を失っていく。


 ならば適度な余裕を作り、生産効率を最大にしてやった方が最終的な効率は良い。



 そう言った思想だ。


 


 それが無いとどうなるか?



 


 貴族は豪遊することと領地からの搾取に頭が一杯だ。

 そして生産階級も無理な税金で心身ともに余裕がない。




 誰も考えない。



 生活の中で起きる些細な発明。

 それらは人間である以上、必ず起こる。

 だが所詮、必要に応じて作られた道具だ。


 


 それらは確かに生活の質を向上させられるであろうが、社会の質を向上させる発想は一生出てこないだろう。 



 何故なら社会という概念が薄く、知識が無いからだ。

 纏めて状況を好転させると言う思考がないのだ。



 人間は蓄積した知識から更に新しい発想を生み出す。


 だが元となる知識が無ければ、考えるために意図的に基準となる知識を収集する必要があり、前提条件が崩れない以上、当然そんな余裕は無い。

 



 魔法の知識が無いため、逆に機械的な技術は生まれるかもしれないが、それらは魔法で解決する方が何千倍も効率が良い。

 この世界では魔法の方が便利なエネルギーなのだ。



 

 しかし一方で魔法は詩的な表現の多用などと言う曖昧な体系で発展が進まない。

 そのせいでせっかく作った研究機関も役立たずとなる。



 一概に原因がこれとも言えないが、

 皮肉にも魔法が技術発展を妨げていることは間違い無い。




 


 だがそれだけだ。




 たった少しだけ。

 それを助けてやればこの世界は発展できる。


 なんと言っても前世では困難だったナノサイズの加工や、回路の構築、エネルギーの変換が容易く出来るのだ。


 

 

 俺一個人でやり遂げたことを加味すれば、この世界が急速に発展できることは間違いない。


 クレーンを必要としない超高層建築。

 環境を汚さない移動手段。

 手術を必要としない治療。


 この世界は可能性に満ち溢れている。




 


 女神が俺に課した役目はその後押し。

 現状でもニコラ商会が販売する技術が生活及び衛生の質の向上に貢献している。


 それを彼等自身で作れるようにするのが俺の役目。




 何だ、





 簡単ではないか。




 何故今まで思い付かなかったのやら。






 成る程、俺も―――




 『ハル君。話、終わったよ。』


 思考を中断するユアの声。



 ふと見上げれば空には星が上がって来ている。

 家々の明かりも消え、暗闇がさらに深くなってきていた。




 ......随分と黄昏ていたようだな。



 『......ハル君?』

 『いや、何でもない。』











 


 ―――随分と余裕のない生き方をしていたのだな。




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