狂科学者は退散する
「詫び......ですか?」
「ああ。」
肯定するハルトを見て、少し思案顔になる王女。
「そうですね......ではハルトさん。」
「何だ?」
「ハルトさんから抱き締めて......その......」
「その?」
何やら口ごもって良く聞こえないので、先を促すハルト。
「く......口付けをしてくださいっ!」
叫ぶ王女。
細い目を大きく見開き、丸くするハルト。
「......いや、まあ、別に良いんだが......それだけで良いのか?」
「勿論気持ちも込めてです。」
謎のオプションを追加してくる王女。
しかし......気持ちか......。
藪蛇だったか。
ハグとキス自体は別に王女に強要されたりしているので初めてではないし、一応婚約者である王女なので問題はないのだが......気持ちか。
難しい要求だな。
気持ちというのは非常に曖昧な概念であるが故に。
ユア相手であれば親愛の情が伴うこともあるんだろうが......どうしたものか。
......いやまてよ?
別に感情の内容についての指定は無い。
なら、
謝罪の念を気持ちと言うことにしよう。
「分かった。」
そう言ってハルトが首を縦に振った瞬間、顔を少しばかり紅潮させて両腕を開く王女。
そこにハルトは入り込み、背中に腕を回す。
しっかりと抱え込み、顔を少し傾けて唇を重ねる。
数秒間、その状態を維持し、そして離れる。
目を潤ませ、顔を赤くして熱い吐息をはく王女の顔を、真正面から見据え、
「......ユアか。随分支度に時間が掛かったんだな。王女の治療は済んでしまったぞ?」
そう後ろに向かって言うハルト。
「え?」
そして呆ける王女であった。
****
「ねえハル君? これ、どういう状況?」
そう言いながらどこか迫力のある笑顔で俺と王女のキスシーンを空中へ上映するユア。
随分と魔法生物の操作がうまくなったようだ。
......で、状況説明だったな。
「大したことではない。王女が俺を好きすぎて自殺しようとしたから、それを止めて謝罪に抱き締めて口付けしただけだ。」
別に隠す必要があることでもない、とそう素直に話すハルト。
その何気なさに怒りが消えたのか、はたまた行き場を無くしてしまったのか、
「......時々思っていたけど、ハル君って何処か達観しているよね......ここまで堂々と言われるとは思わなかった。」
「ん? そうなのか?」
別に俺はユアに何かしたわけではないのだが......。
「......ねえ、ハル君?」
「何だ?」
少し神妙そうな顔のユア。
「......殿下も......受け入れるの?」
「まあな。......不満か?」
純粋な好意には応えてやらなければ少々不憫だ。
ひっそりと自殺されても困るし。
「ちょっとだけ。でもハル君が決めたことだから......。」
嫉妬と言うやつだな。
今度何かしてやるか。
「でも......ちょっとだけ殿下と二人っきりにさせて。少し話したいの。」
「別に良いぞ。俺は外で涼んでいよう。」
「ハル君、ありがとう。」
「気にするな。」
さて、邪魔者は退散するとしよう。
そしてハルトは外に出たのであった。
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