狂科学者、手術をする。
事前に用意していたストックが切れました......
「今日は叔父さんの体内に義手を自在に動かすためのデバイスを埋め込みます。」
ハルトは開口一番に叔父レントへそう宣言した。
「......肩に埋め込むと聞いたんだけど、死なないよね?」
手術の概念が残っているかも怪しいこの世界ではそういう反応になるよな。
前世でも手術の前には恐怖を感じる人は多かった。
「肩に臓器はないし、失敗しても僕は治癒魔法を使えるのでその程度は治せるから安心してください。元々機能を失った腕だし、例え失敗したとしてもなにも変わりませんよ。」
以上を踏まえて本当に手術を受けますか?
「......大丈夫、覚悟は出来た。よろしく頼むよ。」
手術することが決定した。
俺達は予め徹底的に掃除し、エタノールで除菌した部屋に向かった。
「ではこの台の上に横たわってください。」
「わかった。」
「そしてこれを口に着けて呼吸してください。それで術中の痛みは消えるので。」
そう言って中にジエチルエーテルを染み込ませた綿を入れてあるマスク型の容器を渡す。
叔父さんの意識が落ちるのを待ちながら、俺は準備を進める。
事前に開発しておいた切れ味抜群なダイアモンド製のメスと鉄製のピンセット、あと止血用に先っぽだけ高温を出せる電気メス的な魔道具と切り開いた組織を固定するための熊手みたいな器具だ。あと背の高さをカバーするための足台と事前に全力で分離、生成を繰り返して集めたチタン製の各種インプラント。
縫合のための鉗子や針は治癒魔法で十分なので問題ない。太い動脈や静脈は避けた位置を切り開くので輸血は要らないだろうが、一応針で注入できる生理食塩水入りの容器は作っておいたのでそれは用意。
生理食塩水の開発過程だが、現在俺の部屋に居るモルモットは義手を操る一匹だけ。察してほしい。お陰で自信のあるものができた。
準備を終えた俺は叔父さんの顔を覗き込む。
「意識あったら目を開けてください。」
「......。」
反応が無い、ただの屍のようだ。
念のため足の指に針をぶっ刺して反応がないことを確認。
「よし、効いたみたいだな」
そして俺は今世初の手術を始めた。
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手始めに千切れた部分周辺を義手へ信号を送りやすいよう、取り付けやすいように整える。
肩を縛って動脈を止めた後、切断面にメスを入れて切り開き、途中で千切れた筋肉を露出させる。
出血は問答無用で止血する。
そして千切れた腕に無傷で残っていた腱を拝借して筋肉の断面と魔法でくっ付け、強制的に生き返らせる。
治癒魔法を研究していたときに偶然見つけた応用技だ。
どうやら治癒魔法というのは治癒ではなく、生命体の編集魔法らしいのだ。
腱などの細胞が少ない組織や骨などは死んでいても腐っていなければ生体とくっ付けることで生き返らせられる。
詠唱は変えずにイメージを少し改変することで魔方陣に干渉し、修復方法を変更できるようだ。
まあ俺は前世の知識で具体的にイメージができたけど、この世界では傷を治すぐらいしかイメージする知識が無いし、それしか出来なかったのだろう。
そう考えながら再生させた数本の腱を骨の端へ繋げ直す。
ついでに筋肉内に延びていた感覚神経を修復して魔力基板と繋げる。
こうすることで人口筋肉にかかる加重や力の入り具合を感じられるようにするのだ。
そして最後に肩の付け根に集中した神経束に、チタン製のケースへ収められた魔力基板から伸びる端子を大量に差して本体も纏めて埋め込み、骨にいい感じにケースを固定する。
切り開いた所や焼いた血管を修復しながら閉じれば手術は終了。
埋め込んだ奴には全て排除及び吸収阻害の魔方陣を刻んであるので一生拒絶反応はない。
チタン製のメッシュ状インプラントと皮膚が絡まりあって密閉された穴から伸びる大量の魔力端子。これを義手の接続ポートと接続するのだ。予め義手は完成しているので後は正確に取り付けるだけ。
もう麻酔は要らないので叔父さんのマスク擬きを外す。
「ふう......終わった~。」
経験があるとはいえ手術は緊張する。
ハルトは全力で伸びをし、
そして叔父レントの目覚めを待った。




