狂科学者は屈しない
「さあ、ハルトさんも頂きましょう!」
「それには激しく同意するんだが......何故カトラリーが一組しかないのだ?」
配膳が終わり、何やら嬉しそうに食事を始める王女だが、俺は全く手をつけられないでいた。
「はいハルトさん。あーんしてください。」
そう言ってスプーンで掬ったスープを差し出す王女。
そう、俺の使うスプーンが......無いのだ。
スプーンどころかフォークもナイフもないぞ。
「......成る程。これが次の手か。」
「あーんしてください。」
ま、良いか。
どちらにせよ、食事をすると言う目的自体は達成できる。
そして俺は無言で食事を始めた。
「......ハルトさん、それは......」
「―――俺がその程度で屈すると思ったか?」
甘い。
甘すぎる。
この程度の策で俺の行動を制限しようなど十年早い。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべつつ、食事を口に運ぶハルト。
その手には黒光りする一組のカトラリーが握られていた。
......何でそんなもの持っているんだって?
何のことはない、ただ拘束具を着けていた頃の名残で何となく身に付けていたカーボリウムのブレスレットを加工しただけだ。
滅菌してあるので食中毒の心配はもちろんないぞ。
「そんな......ハルトさんと同じ食器で食べて親睦を深める予定でしたのに......。」
呆然とする王女。
しかしな......
「別に仲が良いわけでもない男に同じ食器で飯を食いましょうって言う発想自体を倫理的にまず疑った方が良いと思うぞ?」
「ハルトさんは私と婚約しているんですよ!? 夫が妻と仲良くするのはこの世の常識です!」
「あ? 婚約なんてしていたか?」
していたようなしていないような......
「しています! 口付けしたじゃないですか!」
あー
そういえばその後強制的に婚約させられていたな。
そんで無視したら監禁されたんだっけ。
お前を無視するのに集中していてすっかり忘れていた。
「ま、それはそれ、これはこれだ。と言うことで御馳走様。中々旨かったぞ。」
「え!? もう食べ終わったんですか!?」
お前の食事ペースに付き合ってやる義理はない。
そう勝ち誇った顔をして立ち上がるハルトであった。
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