狂科学者と叔父の右腕。
軽く叔父さんにドラゴン討伐の仕方や右腕の使い方について聞いた俺は、
「じゃあまず腕の寸法を測らせてもらいますね。」
と自作の巻き尺を出して、叔父さんの左腕のサイズを測る。右腕はないので左腕から大体の骨の長さを測り取る。
そのあとに義手の接合部となる右腕の残りを軽く覆うように鉄を加工し、型を取る。
最後に固定する肩回りの長さを測り、ハルトはようやく叔父さんを解放した。
「はい、もう大丈夫です。後はこちらで作るので叔父さんには材料の提供をお願いします。」
と言ってもドラゴンを丸々一頭ではなく、実戦に耐えられるよう強度と出力を向上させるためなので、研究用込みで鱗を数枚とか、腱を数本とか、骨の一部とかその程度だ。
さて、設計を始めるか。
叔父さんを見送った俺は早速作業台に紙を出して設計をはじ......
ガチャ
叔父さんが戻ってきた。
「どうしたんですか?」
「いや、ハルト君はさっき僕の左腕を測っていたけれど、千切れた方の右腕があったら役に立つかな、と思って、」
「あ、もしよければ提供して頂けると嬉しいです。ただ骨が見たいので、最終的にはぐちゃぐちゃになるのは覚悟してください。」
そっちの方がよくわかるからな。
というか右腕をなくした後ドラゴンを倒しているんだから回収して当然か。
「わかったよ。じゃあねハルト君。」
そう言って今度こそ叔父は部屋を出ていった。
さてと、
今回は危ないから首に刺すのは避けたいし......肩の神経から引っ張ってくるか。ちょっと肩を切開するけどそれだけだし。縫合の代わりに治癒魔法があるから傷もすぐふさがる。
改良もしたいから取り外しできるようにして、魔力基板は体内に残せるようにしないとな。そっからアラクネの糸を伸ばして義手と接続する方式で......大胸筋と広背筋、三角筋辺りは完全に残っているから連動させるようにして、上腕二頭筋と三頭筋は残りの骨につなぎなおして信号を取るか。
残る問題は手だな、激しい運動をする以上頑丈でないとすぐ壊れるし、かといって頑丈すぎると繊細な動作がしづらくなってしまうしな......
強度は竜の腱や皮で解決はできそうだが......繊細さかぁ......感覚器官が多いほど接続が面倒くさいんだよなぁ......。それに人工筋肉計40本強、普通のサイズに入るかぁ?
ヒトの前腕というのは非常によくできていて、40本余りの筋肉を完璧にコントロールしているのだ。それを再現するというのは非常に面倒くさい。
そうやってうんうん唸っていると、叔父さんが片手で袋を担いできた。
「はい、言われた材料と僕の右腕だ。」
そう言って腕の入った包みを器用に片手で開ける叔父さん。
「これは......また派手にちぎられましたね......」
食いちぎられた右腕は思ったよりもグロかった。
腐敗とかはしていないんだけど、肘のちょっと上の上腕骨は完全に砕け散っていたし、何本か神経が干からびたスパゲッティのように飛び出ている。まあ必要な部分はそこまで壊れていないので問題ないけど。
「あはは......、結構痛かったよ。」
結構とかそういうレベルではないと思うぞ。
まあ俺はこの材料を最大限使って最高の義手を作るだけだ。
「材料と右腕、ありがとうございます。義手が出来たらパパを通じて連絡するので待っててください。」
「まさか、こっちこそありがとうさ。二度と戻らないと思っていた腕が戻るかもしれないんだから。期待して待っているよ。」
それじゃあまたね、と手を振って叔父は帰って行った。
「......。」
その言葉は今まで周りから理解されなかった俺にやる気という衝撃を与えた。
「......うっし。」
前世含めて人生初の大仕事、やりますか。




