狂科学者は敗北する
国王と話していたつもりが、突然乱入してきた王女。
「......どういうことだ?」
何故ここに王女がいる?
いや、居るのは別に変ではないのだが......少なくとも先程まで話に聞き耳を立てながら扉の向こうで待機していたことは明らかだ。
「どうしたもこうしたも......私の娘はお前を諦める気がないらしい。それだけだ。」
それは見りゃわかる。
相変わらずしつこい奴だ。
「あんたの娘の心情など知ったことではない。」
「奇遇だな? それはこちらも余り変わらない。」
ん?
「......お父様?」
「良いぞ。私は目を瞑っておこう。」
は?
全く会話に追い付いていけないが、国王が目を瞑っていることだけはわかるぞ。
その意味することについてはさっぱりだがな。
「......そうそう、ハルト。」
「あ?」
「失礼しますっ!」
フニッ。
突然唇にやってくる柔らかな感触。
王女の顔がハルトの目の前にある。
国王に意識を向いた瞬間踏み込まれたのだろう。
かなり接近した状態から身体強化を併用しているとはいえ、俺の反応速度を上回るとは中々の速度だな。
「―――これでも娘を拒否できるか?」
ハルトの思考は緩慢ながらにも現在の状況から国王達の意図を探りだす。
王女がしてきたことは......キス。
誰に? ......俺に。
その意味することは......
―――奇遇だな? それはこちらも余り変わらない。―――
まさか!?
「......謀ったな。」
「ん? なんの事だ? 私は娘の行動を黙認しただけだぞ? いやはや、娘が私から離れていくようで中々寂しいな。」
憎々しげな視線を向けられながらも、飄々とした笑顔を崩さない国王。
......ハルトが何故怒っているか。
それはこの事実を利用され、最悪の事態が引き起こされる可能性があるからだ。
王女が婚約もしていない相手に口付けをした。
この事実を国王は握っている。
別にハルトが望んだわけではない。
しかし事実というのは往々にして脚色され、伝わるもの。
例えば、
"王女がハルトの唇を奪った"ではなく、"王女の初物をハルトが手に入れた"
これだけの言い換えで俺への評価は一変する。
前者ではまあ、見初められた幸せな奴だと言う評価も期待できなくはない。
しかし後者となると......俺が能動的に行ったことだと認識され、完全に不埒者もとい変態行為を行った犯罪者としか見られない。
そしてその主導権を握っているのは国王だ。
あくまでもこれらは俺への評価にすぎないが、これは今後俺を大きく縛るだろう。
そこまで俺の面の皮は厚くないし、何よりこれまで関わってきた者全員に被害が及ぶ。
質の悪いことに、俺がそんな不名誉な評価を免れる方法は二つ程度しかない。
受け入れるか、消してしまうか。
消してしまうのであれば話は早い。
今からでも王城の真上にエーテルキャノンの多重魔法陣を展開し、引き金を引くだけだ。
そうすれば全て終わる。
この国の象徴も、
この国自体も、
そして俺は国落としとして名を馳せ、危険人物として周辺国家からマークされ、刺客がいっぱいやってきました。
めでたしめでたし......
って、んなアホな話があるか!
ふざけんなよ糞が。
思わず汚く罵ってしまう。
それほどにハルトは動揺していた。
何せ選択肢が実質一つしかないのだ。
この場で王城を吹き飛ばすには、王女のしたことは軽すぎる。
例を挙げるなら、
遊んでいた赤子がパソコンによだれを垂らしたのでその首を捻り殺しました。
これで有罪なのは首を捻った張本人だ。
明らかに報復の内容が釣り合わないのである。
なので消すことは俺の善良で常識的かつ冷静な理性が許さない。
つまり、
「......俺の負けか。」
「......意外にあっさり認めるのだな?」
もう上手い手は無さそうだしな。
それに、
「俺は元々謀略には向かない。この城ごと事実を消すぐらいしか現実的な解決案が思い付かなかっただけだ。」
逆にその程度なら数秒以内に実行できる。
「......お前は本当に......何者なのだ?」
悔しそうな顔から一転、不適な笑みを浮かべながら堂々と国家転覆の臭いを漂わせるハルトに戦慄する国王。
さてな?
女神の使徒だし、案外偉い存在かもしれないぞ?
ま、答えてはやらないがな。
そしてハルトは城を出たのであった。
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