狂科学者の留守番役
ガタガタ
「開けてください。」
「断る。」
さて、どう脱出したものか。
ハルトは王女をあしらいながら思考する。
......と言っても道は一つしかない。
部屋のドアを開けるわけにはいかないのだ。
そしてこの部屋にある穴は二つだけ。
出入り口と窓だ。
つまり窓から出るしかない。
幸いなことに窓は普通に通れる大きさだ。
外に格子が嵌まっているわけでもなく、いたって普通の窓。
しかし扉の鍵が意味を為さないことが判明した以上、この中途半端な状態で部屋を放置するのも気が引ける。
一応試作段階の魔道具も散らばっているからな。
何かの拍子に見つかると少々都合が悪いものも幾つかあるし。
仕方ない。
『666番圧縮ファイルダウンロード』
『展開』
『座標設定』
『生成』
瞬間、魔力が全身の魔法生物に供給され、膨大な量の情報を処理、発信する。
ハルトの全身から噴き出す、桁違いに巨大な魔力が眼前に集束し、幾億もの魔法が行使される。
周囲の素材は分解され、再構築を経て一つのものへと生まれ変わっていく。
魔力の発する光のなかで四つの赤い光が生まれ、細い四肢と特徴的な長い指が蠢く。
そして光の渦の中、ソレは姿を現した。
それは強靭な人工筋肉と骨格を持ち、与えられた命令通りの"殺戮"と"破壊"をもたらす『獣』であり『機械』。
ハルトの作品の一つである『殺戮機獣』、その先行量産型。
全ての部品が無機物で構成されているので、出力、反応速度共に生体組織を用いている上位機体より優秀だ。
行動アルゴリズムから生体の持つ柔軟さが失われるという難点があるが......まあ今回は留守番してもらうだけなのでそこら辺は問題ない。
その人工頭脳に俺の声を吹き込み、幾つかの命令を与える。
こういう時二進数に適応したこの脳は便利だな。
何せプログラム言語で記述しなくても接続さえすれば直接命令できるのだ。
これで王女の言葉に全て俺の声で『断る』と返してくれる留守番の出来上がりだ。
万一ドアがこじ開けられそうになったら即座に阻止するようにも命令してあるので、入られる心配も無い。
これで準備は完了。
あとはこの部屋から脱出するだけ。
「じゃあな。」
そう小さく呟き、ハルトは窓の外へ飛び出したのであった。
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