狂科学者は悩まされる
意気揚々と王城から学園へ戻ったハルト。
しかし試練はまだ終わりではなかった。
『名字?』
『名字だ。貴族になる以上、まともなやつにしておくことだ。変な名字では末代までの恥だからな。』
メルガルト公爵から要らぬものを教わってしまった。
確かに......名字か。
そんなものもあったな。
すっかりこの世界の平民意識に染まったものだ。
確か俺の前世の名字は......
○○夜だったような......。
そして覚える違和感。
漢字の夜が入っていたことは思い出せる。
様々な書類に書いてきた記号としてな。
しかし、それ以外の情報が頭から抜けてしまったようだ。
まあ、少したぐれば思い出せる感覚だが。
確か二桁の番号だったような......。
そして己の名字を探すために数え始めるハルト。
十......違う。
十一......これも違うな。
十二......何て読めばいいのかわからん。
十三......これもわからん。
十四......違うな。
十五......十五夜? いや、多分違う。
十六......十六夜?
......む?
確か......『いざよい』だったな......。
ああ、
そうだ、
俺の名前は......
十六夜春。
......春という名前が女っぽいといじられていたこともあったな。
偶然か必然か、
俺の今の名前はハルト。
これはこの世界では余りない名前だ。
天然記念物レベルで無いと言うほどでもないが、まあ珍しい部類に入る。
恐らく女神が干渉したのだろう。
......ま、そんなことよりも名字決めだったな。
『何か決まりはあるか?』
『......そもそも新興の貴族自体滅多に現れないのだ。そこら辺の慣習は無いと思って良い。』
そうか。
それを聞き、うんざりした顔をするハルト。
変なものでなければ何でも良い。
そういった条件は、時に人を悩ませる。
なぜなら、決まったゴールがないからだ。
何でも良い......何でも......
取り敢えず前世のカタカナ英語からサイエンスとかヒューマンとかバイオとかそれっぽい単語を持ってきてやってみるか。
これは俺のアイデンテティを決定する要因となりうるからな。
多少は俺らしさを出さなければいけない。
人が定義された世界で生きる生物である以上、呼称や称号等の個人を示す記号は定義付けられた者の人生に関わってくるからな。
例えば、『負け犬』と呼ばれる者と、『英雄』と呼ばれる者がいたとしよう。
どちらがより上を目指しやすいか。
それは基本的に、『英雄』と呼ばれた者だ。
他者からの印象や干渉がなくとも、己の個性を肯定する要素は脳に個性の更なる追求を促し、自然とあるべきレールを進もうと動く。
逆に己を否定され、受け入れた者は、余程の反骨精神やきっかけがない限り、基本的に起き上がれない。
であれば、
己のアイデンテティを肯定した方が良い。
しかし......
まだ根本的な問題は消えていない。
名字......どうするべきか。
そう頭を悩ませるハルトであった。
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