狂科学者、麻酔を作る。
父親の依頼のため、俺は手術する用に麻酔の製作を始めた。
作るのはジエチルエーテル。麻酔の一種でエーテルと言う方がわかる人は多いだろう。
エタノールと濃硫酸を140度で加熱すると出来るので割と簡単だ。
吸入すると全身麻酔をかけられるし、多少量が曖昧でも問題ないという優秀な麻酔だが、34度という極めて低い沸点と引火しやすい性質、意識を失うまで時間がかかる等のデメリットから地球の先進国ではほとんど使われていない。
エタノールの代用として酒に使われていた時代もあったそうだが、胃で沸騰するからしゃっくりが出るし、極端な場合は胃が破裂するらしい。
そんな一長一短な麻酔薬だが、この世界で使う分には十分すぎる。
流石に麻酔の代用に、電気ショックで気絶させるなんて手荒な真似は何回もしたくないからな。
流す場所、電圧をちょっと間違えれば脆い人間なんてあの世行きだ。
第一電気ショックの気絶では手術の痛みを消せない。激痛で跳ね起きるぞ。
まあ種類によっては呼吸が停止する麻酔もあるから危ないことは変わらないが。
ジエチルエーテルは呼吸を阻害しないし問題ない。
問題は材料なんだが、
エタノールは売っている酒から魔道具で分離できるにしても濃硫酸って作ろうとすると結構面倒臭いんだ。地球では割と簡単に手に入ったんだけど......科学文明マジ万歳。
一番単純なのは硝石と硫黄を燃焼させる方法なんだが......硫黄は普通に沢山あったけど硝石は出回ってなかったので少し前に作った分しかない。
それも大便や小便と水と土を延々と混ぜる方法だから、ちょっと郊外の離れたところに小屋を建て、アラン経由でスラムの方達に協力してもらった。日給1000レアと衛生のための新しい石鹸も提供したら喜んでやってくれたらしいが、得られたのはかなり少量だ。
細菌が生成した硝酸カリウムを分離するのは魔道具で一発なんだけどな......生成にも長期間放置する必要があったし、この方法はダメだな。
今回みたいな事態に備えて工業的に硝酸を合成するオストワルト法も試して安定供給目指すか。ぶっちゃけそっちを本命だと思っていたが、土中の細菌に小便を分解させるとマジで硝石が出来るのか少し興味があったのだ。
......ん? 時間の無駄だって? これは研究活動の一環である。よって無駄ではない。スラムの方への給料がかなり痛い出費だったぐらいだ。
元素の化合や分離も魔道具でできたら楽なんだが、残念ながら大雑把な分離や精製、加工ぐらいしかできない。第一それでは俺が死んだ後にこの世界の文明がまた停滞してしまう。できる限り魔法に頼らないで科学実験の延長にある必要があるのだ。
まあ、炭素からダイヤモンドを作れることは確認したが、研磨剤以外そこまで使い道はないな。
ま、取り敢えず作るか。
ガラス瓶に硝石と精製した硫黄を突っ込んで空気を送り込みながら高温で加熱する。
できた硫酸をハルト印の魔道具であるガラス瓶に移し、水分をギリギリまで飛ばせば濃硫酸の完成だ。
そして酒から分離したエタノールと混ぜて再度加熱して不純物を分離。
鑑定眼でジエチルエーテルができたことを確認し、冷却して専用の冷蔵魔道具に突っ込む。
......さて、モルデモート一世は義手の試験中だし、薬物試験用にモルデモート二世を購入しないとな。
少量だし、大事に実験しなくては




