狂科学者は誘う
「......お昼休みに殿下と話していたけど、ハル君、陛下に呼ばれていたの?」
今世初の遅刻をしたハルトに授業後、そう話しかけるユア。
もちろんそうだ。
「ま、大した話じゃなかったがな。」
薄毛について情けない相談を受けただけだ。
「やあ、父上の話は聞いてくれたようだね。」
「......薄毛で悩む国王、随分愉快な国だな?」
こんな相談を直接平民に持ちかけた国王はまずいないだろう。
平和な国だと言ってしまえばそこまでだが。
「......まあ、父上も悩んでいたんだよ。もし僕が薄くなったらその時は宜しく頼むよ。」
そう茶化すように言って微笑む王子。
優男風のこいつが禿げるか......面白そうだな。
もしそんな時が来たら全力で笑ってやる。
しかし、
「お前といい国王といい......少しせっかちすぎるぞ。まだ目に見える効果は出ていないんだが?」
どっからその信頼が涌き出てくるのか......普通少しは疑うだろ?
「いや、君は凡人じゃないどころか一握りの天才以上の能力を持っているからね。そこは信頼できるさ。」
そう爽やかな笑顔で返してくる王子。
......俺は前世の先人達が残した技術や知識に少しのオリジナリティーを加えているだけなんだがな......。
俺が世界に数名程度の天才であることは女神によって宣言されている以上、異論はないが......そこまで高い評価は相応しくないような気がする。
俺がやっているのは前世の基礎となる法則の立証と改良、そしてそれを利用した成果物に科学者のロマンを少々加える。
それだけだ。
「ハル君は完璧だもんねっ!」
曇りのない笑顔でそう言いきるユア。
どこか狂気を感じるユアの頭を撫でて落ち着かせるハルト。
「ユア、お前も少し勘違いしている。俺は神ではない。科学者であり、人間だ。お前の中では俺=神になっているのかもしれんが......俺は決して完璧ではない。」
じゃなければ完全な人間の創造なんて目指さん。
そうだ、
「ユア、今度国王が『解析機関』を見学させてくれるんだが......一緒に行くか?」
「良いの?」
そういえば複数人で行くとは言っていないが......一人で行くとも言っていないし、まあ良いだろう。
「おう。」
「行くっ!」
「......君達は本当に仲が良いよね。」
そして楽しげに話ながら教室を出る三人であった。
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