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狂科学者の助手、人を捨てる(3)

 「三番」の魂が無事なのを確認したハルトは、早速「三番」の為に身体を造り始めた。


 と言っても別に変わったことをしているわけではない。

 いつも通りにテンプレートの人工骨格と筋肉を配置し、人工神経を走らせる。

 感覚器官を設置し、外装を取り付ける。

 俺の研究所所属なので大分性能を上げているが、大体一緒だ。


 そこに転がっている「三番」だった肉塊を参考に生前? と同じ造形になるよう手を加えれば素体は完成。


 テンプレートを基に材質と出力設定を弄るだけで良いから、支部に設置した工房でも自動で数分以内に出来上がる。

 何せデータを基に素材を整形し、組み立てるだけなのだ。

 魔法があるこの世界は前世の世界よりも加工における必要な手間が少ないしな。


 後は仕上げだ。


 出来上がった素体の頭部にある幾つかの仕掛けへ魔力を順番通りに流せば、


 パシュッという音と共にストッパーが外れ、頭部の骨格が開く。


 何時もはそこに信号通信用のモジュールが入るのだが、今回は「三番」の魂が入った「魂核」を嵌め込む。

 しっかりと信号を伝える端子の位置を合わせながら嵌め込み、展開した骨格を元通りに閉じる。


 そして外装に入った切れ目を融合させて直せば一通りの作業は終了する。


 体内にあるスイッチ用の魔法陣に魔力を流し、魔法生物を用いている機構を生かすために魔力供給をしていたケーブルを引っこ抜けば完成だ。


 魔力供給が途絶えたことで内部のバッテリーが全身の機構に魔力を配給し、魂が保有する魔力を消費し始める。


 本来ならこの後信号の適正化を行うんだが......「三番」は結構頻繁に端末と接続していたし、そのための訓練もして魔力信号に適応している。今回もそれに準じて作ったので問題ないはずだ。


 そろそろ感覚機能も起動しただろう。

 「聞こえるか?」


 するとパッと開かれる作り物の目蓋。

 その置くにある無機質な眼球がハルトを捉え、焦点が合う。


 「はいっす。」


 即座に帰ってくる「三番」の声。


 「......やけに声が明瞭だな?」

 「そうっすか? なんか端末を遠隔で動かしていたときよりは自分の体って感じがするっすけど。」


 やはり魂の有無か?

 まあ今は良い。


 「視界は?」

 「ちゃんと見えるっす。」

 「聴覚は?」

 「問題ないっす。」


 よし。

 「じゃあ起き上がって全身を動かしてみろ。」

 

 すると生身の頃のように滑らかな動きで作業台から降り、立ち上がる「三番」。


 平衡感覚をとるために積んでいる疑似三半規管も機能しているようだ。


 「おお......なんか端末よりも動かしやすいっす。」

 「違和感はあるか?」 

 「いや......生身の頃よりも動きやすいっすね。なんか......軽いっす。」


 それはよかった。

 まだ経過を見る必要はあるが......取り敢えず。



 パチパチパチパチ

 「......なんすか所長?」


 拍手をしているハルトを訝しげに見る「三番」。

 「おめでとう。良く俺の実験を耐え抜いた。」

 そんな助手に賛辞を送るハルト。


 「おめでとうって......所長が強制したんじゃないっすか。」

 「経緯が何であれ、お前は成果を出した。それが全てだ。」

 「成果って......自分はただ移っただけっすよ? それもほとんど所長がやってたじゃないっすか。」


 いや、

 「人類には新しい可能性がある。その未来を見るための手伝いをしてくれたと言う意味だ。助手としてある意味当然のことではあるが。」


 ヒトとそれ以外の境目は何か?


 道具を使えるか?

 頭の良さ?

 人の形をしていること?

 

 否、それらは問題じゃないと俺は思っている。

 俺のなかでヒトを定義付ける唯一の条件は、



 ―――何らかの手段で対話できること。―――



 そういう意味では狂信的な宗教家は人間じゃない。

 なぜなら全ての責任を神へ棚上げし、まともな対話ができないから。

 理解するだけ時間の無駄である。

 脳死して意識の回復が見込めない人間も、ヒトではない。

 それはただのエネルギーを消費する肉塊だ。

 逆にとてつもなく高度なAIでも理性的な対話が可能であればヒトなのだろう。

 

 そういう意味で、「三番」はヒトだ。

 生物学的な人類は捨てている。

 細胞の欠片すら残っていない。

 だがヒトだ。


 明確な意思をもって、理性に基づいた行動を心がけている。


 ヒトの意思を宿し、生物学的制約に縛られない肉体を持った新しい人類。


 それが今、






 誕生した。

  

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