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狂科学者は逃げる

 離れないでと懇願するユア。


 ここは思考が表に出てくる精神世界。

 その思いは本物であり、強烈だ。

 悪い気は......あまりしない。


 だが......扱いに困る状況でもある。



 この世界は俺とユアの脳で直接認識を同調、重ね合わせて作られた仮想空間だ。

 そこには感情などの曖昧な情報すらも流れ込んでくる。

 認識の共有と言う方式ゆえに直接俺の脳内に流れ込んでくるのだ。


 それは子供の癇癪のようであり、俺への一途な恋心であり、女性特有の心理だったり......非常に俺の心を掻き乱すのだ。


 何かを言って慰めようにも思い付く言葉は殆ど気休めにしかならない。


 『ハル君......ずっとこうしたかった。』

 ぼんやりと考えながら、なされるがままに突然現れたキングサイズのベッドに倒れ込むハルト。

 そしてすり寄ってくるユア。

 

 今起きている現象は、この仮想世界の持つ、片方の認識がもう一方の認識を侵食するという厄介な特性の結果だ。


 この世界では俺の意思はユアの意思に引っ張られ、その逆もまた同様になっている。

 そして夢に近いその性質から、望めば何でも出現、消去できる。


 つまりユアが強く「ここにキングサイズのベッドがある」と思い込めばそれが現実となり、俺が否定しない限り俺の世界も侵食して現実になる。


 だから俺もベッドに倒れ込んでいる。


 だが、

 『......そろそろ離してくれないか?』


 そろそろ疲れてきたな。

 それに食堂で飯を食いたい。


 『や』

 そして返される、シンプルで分かりやすい『拒否』。


 『......なぜ俺をそこまで縛ろうとする?』


 そう未だに俺を全身で味わっているユアに問うが、


 『え? それは......ハル君を他の女狐に取られないように......ハル君がかっこいいのがいけないんだよ?』


 知ってた。

 今まで隠されていたユアの思念がガンガン伝わって来るしな。

 最後の一言が非常に気になるが......スルーしておこう。

 

 さてさて、どうしたものか。

 そうだ、

 『ユア......お前は俺がお前以外に女友達を持っていると思うか?』

 『王女様は? 殿下を連れて来たのは失敗だったと思うの。』


 いや、あんなストーカーを友人認定した覚えはないんだが。

 『いや、全く。俺にはユアしかいない。ってことで離してくれ。』


 この台詞は劇薬だ。


 最後の一言はユアの中で切り落とされ、「俺にはユアしかいない」が残る。

 そしてユアの脳内では高速でリピートされ、脳内麻薬が溢れる。


 そしてユアの情熱的で強烈な支配が解けた瞬間、すかさず俺が世界の主導権を握るわけだ。


 そうなってしまえば後は簡単。

 この歪な世界を否定し、接続を遮断する。


 それでいつも通り終わる―――



 『待ってハル君!』





 ―――筈だった。

 

 

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