狂科学者は泣かせる(誤解)
「......何で俺の周りはこう、ストーカーしかいないんだろうなぁ?」
「ストーカーって?」
「こっちの話だ。それよりユア、お前は何か研究しなくていいのか? わからないことがあるなら多少は相談に乗るぞ?」
ため息とともに漏れるハルトの愚痴にユアが疑問を覚えるが、軽く流して話を振る。
俺は基本的に誰かに教えると言うことはしないが、ユアは優秀な奴だからな。
助手達と同様に高度な教育を施す価値があるのだ。
「ん~......じゃぁ......」
ハルトの言葉に、ちょうど聞きたいことでもあったのか口を開くユア。
「ハル君がどうしてそんなに沢山の魔法を一度に使えるようになったのか知りたい。」
何を聞いてくるかと思ったら魔法生物についてらしい。
それが魔法生物由来の技能であることは知らなくても、なんとなく気付いているのだろう。
ハルトが元から今のハルトであった訳ではなく、
己に手を加えることで今のハルトになったのだと。
「......成る程。」
「だめ?」
「いや、別に問題はない。」
メルガルト公爵は知っているし、レント叔父も知っている。
教えること、ユアに投与すること自体は問題ない。
だが、
「それを知って何をしたい? 曖昧なものでもいい、何がしたい?」
変なことに使うことはないだろうが、目的は聞いておくか。
するとユアは真面目な顔になり、
「ハル君に近付きたいの。だめ?」
俺に近づきたい、か。
「俺なんかを目標にしても何の特もないと思うが?」
「ううん、私はハル君の......」
そこで少し躊躇ったように深呼吸をし、
「......ハル君の側で、ハル君の為に生きたいの。」
いつもの明るさを何処かに追いやり、少し頬を染めながらも真面目に告白するユア。
「そのために、俺を更に理解するために近づきたいということか?」
「うん。」
そして二人の間が静寂で満ちる。
正直、......驚いた。
ユアがこんなにも好奇心が旺盛だったとは。
恐らくユアは俺と対等になりたいのだろう。
生まれ持った魔力量は無理でも、その制御能力と知恵で。
俺と対等になりたい一心でここまで来た。
素晴らしいではないか。
この文明のやや遅れている世界で、制限された情報の中で、このような思考をする人間は余りいない。
人はまず生きることに必死になり、余裕ができて初めて他の事を考えだす。
社会保障がない。
参政権がない。
立身出世の道もあまりない。
出身から基本的に逃れられない。
ないない尽くしのこの世界。
そんな中、俺と同じ程度まで教養や知識を蓄えようとするユアは、
―――相応しい―――
俺の魂に刻まれた異世界の知識を、
この世界で確立した新しい理論を、
その全てを教え、共に研究する者として。
ハルトは一人だった。
異世界の知識を持とうが、地上最強の生物になろうが、常にある点において一人だった。
異世界に生きていた記憶、そしてそれに付随した情熱があると言う点で、一人だった。
手伝ってくれる助手達はいるが、議論を戦わせられるほどの教養がない。
援助してくれる家族はいるが、研究には口を出してこない。
そのため、討論することがなく、誰かの知恵を借りることができなかった。
勿論知恵というのは知識ではない。
人それぞれが持つ千差万別な思考のパターン、そしてそこから生まれる視点の異なった解だ。
それは一人ではできない。
相手が必要だ。
だから、
「......歓迎しよう、今日からお前は俺の『相方』だ。勿論、俺の全てをくれてやる。」
勿論受け入れる。
共に研究する者として。
しかし、
「......え? いいの?」
「勿論だ。何か問題でも? っておいっ!?」
「ハルくん゛っ......うれしぃっ......」
何故かハルトの言葉に涙を溢れさせるユア。
......俺の相方になれたのがそんなに嬉しかったのか?
互いの抱える誤解に気付かず、突然嬉し涙を溢れさせたユアに困惑するハルトであった。
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