狂科学者はテコ入れする
体内に埋め込んだ無機体が生命活動を始めた。
その事実に大興奮したハルトは、即座に検証を始める。
「......こうして自分の胸を切り開くのは何気に初めてだな。」
そう言いながら露出した己の胸骨をまじまじと眺めるハルト。
別にどこぞの継ぎ接ぎが目立つ天才外科医ではないので、手術道具を常備しているわけではない。単に治癒魔法で組織を移動させただけだ。
そして軽く骨を削り、急造したチタンの塊を嵌め込む。
再度治癒魔法をかければ元通り。
後は数日間経過を観察するだけだ。
無事生体に変化したら摘出して観察しよう。
「......さて。別方向からアプローチをしてみるか。」
このまま結果を待っているだけって言うのもつまらん。
そういうわけで急遽支部に人型端末を持ってこさせ、準備を始めるハルト。
しかし直ぐに手を止め、考え込み始める。
この部屋はそこそこ広いが、それでも機材が入れば窮屈になる。
耐えられなくもないが、研究をするスペースには余裕を持ちたい。
かといって支部でやるとしても長期休み以外では外出にいろいろ制限がかかる。
「......よし、掛け合ってみるか。」
そして学園長室へ向かうハルトであった。
****
「......成る程、貴様の意見は理解したのじゃ。」
「それは良かった。」
「して、本音はなんじゃ? 貴様がそんな高尚な性格をしているわけないじゃろ。」
ふっ、只の脳筋ではなかったか。
「研究する場所がほしい。」
「......はあ、貴様の言いたいことは良くわかるのじゃ。確かに似た者同士が互いを切磋琢磨するのは非常に効果的じゃし、ここは学園、そういう場を提供するのもまた役目の内じゃ。」
「そうだろ?」
「しかし......貴様の言う『部活』とやらじゃが、資金はどうするんじゃ? いくら王立とはいえ、予算は有限じゃぞ? 備品はただではない。」
「別に俺は要らんぞ? 元々収入から研究費を出しているしな、他は......そうだな、より素晴らしい成果を上げた部活に優先的に回せばいいのではないか? その程度も出せないほど国庫も貧しくないだろ? そうすれば研鑽に励む口実ができる。サボるやつは勝手に消えるだろうしな。」
俺が今学園長に掛け合っているのは、前世で言う『部活』を作らないか? って内容だ。
広いスペースを確保し、堂々と実験を行える環境を作るのに最適だと思ったからな。
学園側からしても生徒達が勝手に切磋琢磨してくれる環境と制度は欲しい筈だ。
それに、
元来、人というのは好きなことにしか能力を注ぎ込めない生き物だ。
苦手な分野でも反復すればそれなりの成果を出せるだろうが、効率が段違いだしな。
俺は古典文学なんぞくそくらえだ、そんな遺物、消えてしまえば良いと思っているが、それが好きな人間もまたいるんだろう。
逆に生物学が嫌いだと叫ぶ人もいるだろうしな。
結局、この世の全ては二つの要素で分けられる。
嫌いか、好きか。
嫌いであれば関わりたくないし、好きであれば歩み寄りたくなる。
そういう意味では人もまた単純な動物だ。
何が言いたいかって言うと、
人間、好きなことしている瞬間が一番有能なんだよ。
っていうことだ。
ついでに仲間がいればなおよし。
好きなことに妥協する者はまずいない。
つまり好きなことには人間は最高のパフォーマンスを叩き出せる。
そういう意味で前世の中高であった部活はある程度有能なシステムだ。
少々自由度は低かったがな。
「はあ......わかったのじゃ、一応上申はしておくのじゃ。じゃが......通るかはわからんぞ?」
まあ、そりゃな。
でも多分通ると思うぞ?
何せ国王が俺に注目しているのだから。
俺の技術をなんとしても手にいれたいだろうし。
余談ですが、作者は仮入部すら一度もしたことない真性の帰宅部でございます。
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