狂科学者はキレている
「......何でも叶えるといった手前、余は拒否をすることができない。だが良いのか? 余に願い事をする権利を放棄してしまっても?」
「勿論です。今の私は資金、研究材料、人員、技術の全てにおいて満たされていますから。」
貴様には準備すらできまい。
「ほう......良いだろう。今、この場でユーフォリア·メルガルトに権利を移行する。ユーフォリア·メルガルトよ、願い事はあるか?」
「......申し訳ございません。少しお待ちしていただきたく。」
どうやら棚ぼた的に手に入った権利をどう上手く使おうか思案しているのだろう。
「よい。待ってやろう。」
「ありがたき幸せ。」
そう言って片膝をつき、臣下の礼をとるユア。
「おい、貴様! 陛下に礼を取らないとは何事......」
「ん?」
なんかうるさい奴がいるな。
黙れ。
そんな軽い気分で存在感を一部だが解き放つハルト。
一気に重苦しくなる空気。
ユアは平然としているが、国王を守っている近衛騎士達は腰に下げた剣へ反射的に手をかけている。
何かあれば俺を切るつもりなんだろう。
ま、そんななまくらが俺に傷つけられるとも思えんがな。
「どうやら少し煩い『蝿』が数匹いるようですね? 仕留めることは容易いですが、いかがですか?」
そう皮肉るハルト。
「いや、こちらで『処理』しておこう。気にしないでくれ。」
冗談に聞こえない冗談に冷や汗をかきながらも平静を装って返す国王。
非常に滑稽だ。
俺の目は目の前にいる人間のバイタル程度、容易く録れるのだよ。
ところで、
何で俺がこんなに不遜な態度を取っているのか。
取れるのか。
簡単に言えば、敬意を払う必要がないからだ。
俺はニコラ商会から独立し、『二術院』を創った。
やってくる患者達の治療費が生み出す利益は莫大であり、既に中堅以上の利益を上げている。
そして顧客の対象である、金のある貴族や商人が国境を超えて大量にいるのだ。
皆失った四肢の代わりを十全にこなす義肢の前には金を積んだ。
つまりそれだけの価値があると言うこと。
それを作れる俺は同様かそれ以上だ。
つまり俺は金や権力を持つ患者達にとって、程度の差はあれ、『先生』なのだ。
その影響力は計り知れない。
別に清いことが正義だと思わない。
権力と財力、コネクションはあるだけで強力な武器となるからな。
道具を使って上位者であり続けた人類だ。
身近にあるものを有効に使わなくてどうする。
そして、そんな価値ある俺は単独で国を滅ぼせる力すらある。
今でも全力でエーテルキャノンをぶちこめばこの惑星を破壊する程度容易いだろう。
流石に俺の生命活動に支障を来すのでしないが。
国王というのは強権を持つから敬われる。
法を作り、臣民に守らせて初めて力を得る。
では、
単独で国家を越える戦闘力を持ち、国に縛られぬ利権を持つ。
むしろ貴族に影響力を持ち、国を縛る側にもなりうる。
その技術力、知力、生産能力、果てには武力において容易く国を上回る存在にとって、
果たして国は敬意を払う場所であるだろうか?
必要性は?
責務は?
否、あるはずがない。
これは自惚れではなく、事実だ。
王立魔法学園に退学処分を下された?
関係ない、寧ろウェルカム。
国から追放された?
OK、上等だ。
新しい国を作ってやんよ。
絞首刑になった?
そもそも俺の首を吊る程度で殺せる縄があるのか?
ギロチン?
首、切れんの?
罰金?
よし戦争だ。
国土から焦土に変えてやる。
ついでに通貨も消し去ってやる。
囚人にしてみる?
手が滑って独房全壊するかもしんないけど、良いの?
全て俺にはデメリットにならない。
ところでなぜ俺がこんなに不機嫌か。
それは国王のせいだ。
俺を試合に強制参加させたな。
その張本人がのこのこやって来て『願い事を言え』だ。
普通、怒るだろ?
極めつけは煩い蝿からの『無礼だ』発言。
短気のハルトが不機嫌になるには十分だったのだ。
そしてちょっぴりキレたハルトから放たれるプレッシャー
......観客達は一時間、固まることとなった。
その後、『二術院』に全身の凝りを解してもらいに来る人が増えたのはまた別の話。
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