狂科学者はちょっぴり鈍感
「ユア君はまだ起きないのかい?」
「......そうだな。」
現在、俺達は救護用のテントでユアの目覚めを待っていた。
あの後、アレク王子の方は割と早く復活したんだが、ユアは熟睡してしまい、なかなか起きそうにもなかったので救護用テントに置かれたベッドの一つを借りて寝かせていた。
途中アレク王子は試合を見に行っていたが、俺は別に興味がないのでこうして横に座り、暇潰しをしながら待っていたと言うわけだ。
暇潰しのネタに事欠かなかったのは幸いだ。
そういった点でも『虚数属性』のデータを提供してくれたハインツ―――第三王子だか第何王子なんだか知らんが―――には感謝している。
ユアの体温や脳波を見る限りそろそろ起きそうだがな。
「......ん。ハル......君?」
お、
起きたか。
寝惚けているのかどこか虚ろなユアの両目が俺を視界に納める。
「あ......ハル君だ......」
右にアレク殿下もいるぞ?
そんなものは目に入らんと言わんばかりに身を起こし、俺ににじりよるユア。
心なしか顔が赤いようだが......悪夢にでも魘されたか?
そしてパッと抱き付くユア。
抱き枕役はもちろんハルト。
そのままぎゅうぅぅっと抱き締め、顔をハルトの首に埋めたユアはというと、
「おい、寝るな。」
再度夢の世界へ旅立っていた。
ちょっぴり息が荒いし、悪夢の続きでも見ているのか?
「......本当に君達は仲が良いね......。特にユア君は。」
「なに、幼馴染みだしな、じゃれているだけだ。もう少し大きくなったら恥ずかしくなって離れるだろ。」
ユアをホールドしながらそう返す俺にジト目を向けるアレク王子。
「そういう君もユア君以外にはそんな優しい対応なんてしないみたいじゃないか? フィーが嘆いていたよ?」
ああ、あの粘着王女か。
そういえば兄妹揃って粘着気質だな。
「まあな、幼馴染みで最も気心の知れている奴だからな。多少は対応も考える。」
メルガルト公爵家とはそれなりに仲良くやっていく必要がありそうだしな。
親父の友人だし。
......っていうかそろそろ結果発表の時間だな。
そのぐらいは見に行くか。
それにはユアに起きてもらわなければ。
「おーい、起きろー。」
そう声をかけながらユアを揺する。
揺する。
揺する。
揺する。
「......起きないね......。」
「そのようだな。」
「ちょっと良いかい? ひとつ案があるんだけど。ユア君の耳をこちらに向けてくれないかい?」
ん? そうか。
「ほれ、」
ユアの首を折れない程度に回して耳を向ければ、
「ユア君、愛しのハル君に置いていかれるよ?」
「おはようっハル君!」
目がぱっちり、体もしゃっきりさせてちょっと声は裏返らせつつ飛び起きるユア。
そして相変わらず王子は目に入らない模様。
それにしても......
「おい、愛しのハル君ってなんだ? ユアはそんな乙女じゃないと思うんだが?」
普通にじゃじゃ馬だと思うんだが?
おい、ユアはユアで何故そこで俺を殴る?
こちらは全く痛くないが、程々にな?
「君は本当に鈍感だね......。」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもないよ。」
そうか。
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