狂科学者の戦い方(2)
「ほう、これがお前の属性......いや、能力と言うべきか。」
そう呟き、笑みを浮かべるハルト。
その視界に映る解析結果を上から下まで舐めるように眺め、何度か頷く。
「通りで見えないわけだ。お前の魔力は......現実に存在しないのだからな。」
数学には虚数と言う概念がある。
虚数というのは感覚的に捉えるのが非常に難しい。
実際には実数の対、実二次正方行列などで捉えることができるがな。
加えて通常の大小関係を当てはめることができない。
そして、
ハインツの魔力はそれに似た特性を持っていた。
膨大な計算式を通して現れた解析結果の中に示される、虚数の性質。
魂の感覚では大きさをつかむことが許されず、放つ魔法は虚数の魔力のため効果が変質、不発となる。
反面、魔力を体表に纏わせることで受けた魔法攻撃に虚数を付与し、魔力の作用するベクトルを崩壊させることができる。
そんな強そうで呪いのような魔力だ。
女神が俺に付与した『超回復』と同系列の生まれ持った能力なんだろう。
そしてこの虚数の魔力、なんと通常の属性から属性変換することができる。
その際膨大な魔力を消費するが、不可能ではない。
つまり俺にも使える。
じゃあ何ができるのか。
虚数同士をかければマイナスだ。
そしてマイナス同士をかければプラスとなる。
プラスとは即ち、通常の魔法そのもの。
そう結論づけたハルトの脳内に魔力の信号が駆け巡る。
『0001番ファイル炎弾魔法陣選択』
『条件式記述』
『虚数変換式に代入』
『逆関数作成』
『各条件のベクトル反転』
『保存』
「では。」
口を開くと同時にまだ片腕で押さえつけていた剣を放り投げる。
同時にハインツも宙を舞う。
『魔法陣百個複製、展開』
中に膨大な数の魔法陣が開かれ、
「食らってみろ。」
瞬間、ハインツの周辺が爆発した。
正確には、見えない炎弾がハインツの体表に纏われた魔力に触れて実体化し、爆発したのだ。
虚数の魔力として打ち出された元炎弾に実体はない。
おまけに魂の感知能力すらも機能しないため、見えない。
もっと言えばそのままでは何の効果もない魔力だ。
しかし、
『魔法殺し』を相手に限定し、その防御に触れた場合、それは効果を発揮する。
その爆風はハインツの全身を襲い、ダメージを与える。
ボールの様に吹き飛ぶハインツ。
そして現実で起きた非現実的な現象に目を剥く観客達。
「久々に食らう魔法の味はどうだ?」
ま、そもそも食らったことすらないかもしれないが。
「ぐっ……何が……?」
どうやら向こうは理解できていない様だ。
まあ、まだ目は覚めている。
そして降参もしていない。
ならば、
今の内にデータを取れるだけ取りますか。
ハルトは自分が試合に出ていることを忘れていた。
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