狂科学者の生徒(1)
勢いよく空から墜落すると言う一発芸で、注目を独り占めにしたハルトは気にした風もなく土属性で軽くクレーターを直し、王子とユアの所まで歩いていく。
傍目から見ればこれ以上ないほどのアピールだが、本人はただ煩わしい大人の塊から迅速に脱出しただけだ。
何の捻りも無いが故にその地力が伝わってしまう。
そして、
「王よ、御無礼をお許しください。」
「許す。何だ?」
「あちらの生徒、本当に人間なのでしょうか? 私には魔道具が人間の形をとっているようにしか見えません。」
「......どう言うことだ?」
こちらでも静かに混乱が生じていた。
「あの生徒はご存じで?」
「あれは......ハルトだな。正直、底の見えん奴だ。で、何か『視えた』のか?」
「人の体には必ず魔力の『流れ』がございます。」
「ハルトはそれが無いと?」
「いえ......言葉にするのは難しいのですが......。」
「何だ? 言ってみろ。」
そう国王が先を促すと、その宮廷魔法使いは躊躇いながらも口を開いた。
「あの者の体内では、魔力の流れが凄まじく細かいのでございます。一見無秩序に見えますが、しっかりとした秩序を持って動いています......そうですね、以前、解析機関に回された魔道具に近いと言えばお分かりいただけますか?」
「何?」
ハルトの作った魔道具とハルトの抱える秘密、その一端を捉えたと言わんばかりに食い付くウェルマニア国王。
だが、
「私にも解りませんが......この試合でその意味が分かるやもしれません。」
そして黙り込む臣下の顔に『理解不能』を読み取り、あっさりと身を引いたのだった。
****
「それでは、これより、二年生の交流試合を開始します。ウェルマニア王国先鋒、ユーフォリア·メルガルト!」
司会の合図とともに前へ進み出るユア。
「対するは、エルドルリア王国先鋒、ピエール·ルグラン!」
向こう側からは金髪でそれなりに顔の整った男が進み出てくる。
名字がついているので、貴族なんだろう。
魔力もそれなりの量あるように見える。
「双方、用意!」
そしてそれぞれ身構えるピエールとユア。
ユアは訓練通り全身へ魔力を巡らせ始める。
ピエールの方はというと、こちらもまた魔力を巡らせている。
そして展開される半径二十メートルはあろう円柱状の結界が二人を包む。
「......始めッ!」
先に動いたのは、ピエールだった。
「『炎よ、我が意に踊り」
「『風爆圧殺』」
しかし、ユアの方が先に完成し、その潤沢な魔力でピエールの前面にある空気を加速する。
その加速は、約七万気圧に相当。
細胞が圧死するほどの高圧を正面から食らったピエール君はというと、
ゴンっと吹き飛んだ体を結界に叩きつけられ、そのまま張り付いた。
苦しそうに顔を歪めながらも、体内の魔力循環は絶やさず、それで何とか命を繋いでいた。
しかし、もう試合は決していた。
ユアは腰にある剣を抜き、ピエールの首に添える。
「勝者ッ、ユーフォリア·メルガルト!」
瞬間、沸き上がるウェルマニア側。
そして結界が解かれ、ユアが走ってくる。
「ハル君、見た? どうだった?」
喜色満面なご様子で訊ねてくるユアに、ハルトも返す。
「満点だ。ちゃんと作戦通りできたからな。」
「えへへ」
相手にうむも言わせず圧勝する。
魔力効率も悪くなかったし、属性のチョイスも良かった。
基本的に、戦闘に適しているのは風属性と火属性だ。
出が早く、司る概念の影響で破壊力も大きい。
雷属性も悪くは無いんだが......少々殺意が高すぎる。
試合には向いていないのだ。
まあスタンガンの真似事ぐらいはできるだろうがな。
しかし......ピエールとやらは、向こうで三番目に優秀らしいが......魔力が駄々漏れだな。
魔力総量が視えるというのはそういうことだ。
魔力が漏れ、隠蔽できていないとき、外部から視覚的に干渉しやすくなる。
そういう状態を指す。
だから俺の魔力も見ようと思えば見えるんだろうが......魔力量の圧倒的差のお陰で基本レジストされている。
さて、次は......こちらも似たような感じだな。
「ユア、次の奴にも同じ程度に、だが別種の魔法で対応しておけ。」
「うん。」
対策をとられているとカウンターで返されるからな。
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