狂科学者の入場
身支度よし。
制服の乱れ無し。
魔法生物の調子もよし。
さて、
「行こうじゃないか。」
そしてハルトは部屋を出た。
****
「......それでは、この場に、第二十八回、二国間交流試合の開催を宣言します。」
ワァァァァァァァァァァッ
拍手や歓声が響く決闘場。
周囲を見回せばウェルマニア王国とエルドルリア王国、二国の運営する魔法学園の生徒やその関係者及び双方の王族、国王、入場券を得て観戦に来た貴族が身を乗り出し、今年の優秀生徒達を見極めようとしている。
その膨大な人数を収容するため、試合の場所として選ばれたのは王城にある騎士団用の訓練場だ。
開催されるのは毎年この場所らしい。
王族の周囲には警護の騎士が巡回し、不審者をサーチ&デストロイするべく目を光らせている。
そんな中、両国の貴族が集まり、一際目立っている場所があった。
なぜかその多くが明らかに生身ではない義肢を装着している。
その中心に居るのはというと......
勿論ハルトだ。
「おおハルト殿、先日は右腕に世話になったな。今度食事でもどうだ?」
「久しいなハルト殿、ところで少々義手の調子が悪いのだが......今度診て貰えないかね?」
「ハルト殿、我が家のお抱え魔法使いにならんか? 給料は弾むぞ?」
「ハルト殿は王子殿下と懇意にしていると聞いたのだが......本当かね?」
「ハルト殿、家の娘が丁度ハルト殿と同い年なんだが、嫁にどうだ?」
ハルト殿ハルト殿うるせぇっ!
食事の誘い、義手の不具合、勧誘、果てには人間関係や嫁について、
小貴族から大物貴族、そこそこ大きい商会の代表まで口々にハルトへ話しかける。
皆ハルトの所有する『二術院』の力を知った者達だ。
その治療技術や義手の製作技術、一枚噛むだけでも大きな利益が出るだろうその商売。
それを一身に受けて急成長したニコラ商会を見ればわかるように、その可能性は計り知れない。
その相伴に預かろうと画策する貴族や商会の多いことはハルトに群がる集団を見れば明らかだ。
「それでは、出場する選手の方々の紹介に入ります。選手の方、入場してください。」
司会の言葉に、煩わしい集団から解放されるハルト。
そして思い思いの方法で入場? する選手達。
飛行の魔法でどや顔をしながらゆっくり入場する者、魔法で無駄に派手なエフェクトをつけながら登場する者、普通に堂々と階段を下りて入場する者等。
学園を優等生として卒業したからといって就職出来るわけではないこの世界。
特殊な事情のある者以外、皆将来雇ってもらえるよう必死なのだ。
王子やユアは無難に風属性で飛行し、決闘場に降り立っている。
そんな中、ハルトはというと、
「「「消えたッ!?」」」
否、高速で跳び上がり、最高速度をもって入場した。
そこそこ手練れの魔法使いは、その異常性に気付きさらに驚く。
あまりにも速すぎるのだ。
肉体が爆けるのを防ぐために身体強化にそれ以上の魔力を注ぎ込めば話は別だが、普通身体強化と飛行は同時に使えない。
身体強化は詠唱を必要としないため、理論的には可能だが、その制御を難易度の高い飛行の魔法と平行して行うのは至難の技なのだ。
一度でもどちらかに割く思考が切れれば、それで破綻する。
そんなレベルの魔法技術に気付いたのだ。
そして決闘場に着地するハルト。
同時に小さく揺れる決闘場全体。
その足元はクレーター状に吹き飛んでおり、着地時の衝撃を雄弁に物語っている。
皆の目がその衝撃をもたらした者に向けられた。
ハルトはその存在をわずか数秒で全員の目に焼き付けたのだった。
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