狂科学者を愛する者
王子が部屋から出ていったので、ハルトもユアを抱えて立ち上がる。
腕の中を見れば、安心しきった顔で眠るユア。
泣きつかれたのだろう。
そのまま部屋を出て、女子寮に向かう。
周囲の好奇の視線を浴びながら歩き、ユアの部屋の前に立つ。
コンコン。
「どうぞ。」
「失礼する。」
そうして部屋に入ると、ユアのルームメイトらしき人物と目が合う。
瞬間、慌て出す向こう側。
「あ......あなたは!?」
「ん?」
やけに驚くなこの......おそらく貴族令嬢。
余程驚いたようで、口が開きっぱなしだ。
一応新入生代表として壇上で挨拶したんだがな......。
まあ良いか。
口を半開きにして固まっている令嬢を尻目にユアをベッドに寝か......
そういえば俺以外は相部屋だったな。
ふむ、どちらに寝かしたものか。
「おい。」
「......なんですのっ!?」
テンション高けぇな。
「ユアのベッドはどっちだ?」
「あ......え、っと、そっちですの。」
ほう、右か。
令嬢が右を指すので右のベッドにユアを寝かし、毛布をかける。
「邪魔したな。」
そしてさらっと退出するハルト。
令嬢はハルトの出ていったドアを見つめ、
「......なんなんでしたの......?」
****
「んぅ......。」
暖かい。
包まれるような温もりの中、私は目を覚ました。
これは......毛布?
「あれ? アンナちゃん、どうしたの?」
同室のアンナ=ファリス、ファリス侯爵家の長女で私の友達。
そのアンナちゃんが私の顔を横から覗き込んでいた。
「いえ、何でもないんですの。それにしても......ユアさん?」
「なに?」
「ユアさんは、ハルトさんにとっても大事にされているんですのね。」
ハル君!
そういえば私はハル君に抱っこされてそのまま寝ちゃったような......
ハル君、良い匂いだったなぁ......。
はっ!
軽くトリップしかけた意識を何とか繋ぎ止め、私は声を絞り出す。
「ハル君は......どこに行ったの?」
その質問にアンナちゃんは少し首をかしげて、
「ハルトさんは......ユアさんをベッドに運んで直ぐに部屋を出ていきましたの。その後どちらに行ったかは存じ上げませんの。」
よかったッ......。
私は本日二度目の安堵をかみしめていた。
ハル君に抱き締められたこと、その温もり、匂い、撫でられる心地よさ。
その全ては夢じゃなかったみたい。
私は知っている。
ハル君は無駄なことが嫌いだって。
でも私を抱きしめ、慰めてくれた。
それは、その忙しい手を休め、行動するだけの価値が私にあったという証明に他ならない。
またハル君に一歩、近づけた。
それだけで私の心は一気に満たされる。
この五年間、ハル君に近づくためにいろんな手を尽くした。
積極的に遊びに行き、話しかけた。
話についていけるように勉強もした。
勉強の方はハル君の頭が良すぎて余り意味がなかったけど。
まだまだハル君の隣は遠いけど、私はそこに立ちたい。
ああ、
「ハル君......」
ハル君を想うだけで自然と熱い吐息が口から漏れる。
今何をしているのかなぁ......。
****
「......全く......なんなんですの?」
ユアさんを抱えてずかずかと入ってきたハルトさんはユアさんのベッドを聞いた以外ほぼ無言で行ってしまいましたし......。
ユアさんはユアさんで起きたと思ったらわたくしに聞くだけ聞いて、可愛らしく頬を赤らめながら自分の世界に入ってしまいましたし。
わたくしは辞書ではありませんの。
こんな扱いは不当ですの。
「ハル君......。」
ああ、また呟いていますの。
ユアさんがハルトさんを好きなのは前々から知っていましたが......先程のハルトさんの振る舞いを見る限り先は長そうですの。
ハルトさんの目はどちらかと言えば、ペットに向ける慈愛のようなものが篭っていましたし。
ユアさんは子犬のような方なので分からなくもないですが......。
ハルトさん......不思議な雰囲気の殿方でしたの。
ユアさんが彼の何処に惹かれたのかは存じませんが......まあ友人として応援はしておきましょう。
そして私は友人であるユアさんの恋が実るよう、神様に祈るのでした。
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