狂科学者の幼馴染み
今日の訓練を終え、部屋に戻るハルト。
「......はー。」
そうため息を吐きながら背筋を伸ばす。
その視界にあるのは見慣れた立体ディスプレイ。
「......さて、直すか。」
今日の人型端末爆散事件。
その残骸は既に従業員達に回収され、現在支部の工房にある台の上に散らばっていた。
それをカメラを通して見ながら、ある程度義腕を操作して並べ、ロードと書かれたボタンを押す。
そしてメインコンピューターから構成データが転送され、破損した部品がデータに沿って融合、変形し再構築されていく。
螺切れた関節の間にワイヤーが走り、その上を人工筋肉と神経が覆っていく。
貫通された穴は細やかな塵が除去され、閉じていく。
そして外部を装甲が覆いきる。
一連の作業は滞りなく完了し、作業台の上には新品の戦闘用人型端末が横たわる。
それを見届けたハルトはベッドに飛び込み、目を閉じたのであった。
****
「ユアさん、もう終わりですの?」
「うん、今日はもう終わり。」
ルームメイトと話ながら、私は寝る準備をしていた。
「そうですの。......そういえば......ユアさん?」
「なに?」
なんだろう?
「その......ハルトさんってどんな人なんですの?」
ハル君か......
「何で知りたいの?」
「......ユアさんが親しげにしていますし、この学園の首席だからですの。」
はー
私は心の中でため息をつく。
私の想いに反してハル君は色んな人―――主に女子生徒―――が興味を持っている。
ハル君がすごいのは多分誰よりも知っている。
具体的には五歳の時から。
今でもあの時は鮮明に思い出せる。
軽い気持ちで町に飛び出し、怖い人達に連れていかれたときの恐怖。
私を舐めるように見る気持ち悪い視線。
そして、
怖い人達が突然倒れたとき感じた、呼吸ができないほどの恐怖と、安心感。
ハル君が助けてくれた、あの時を。
ハル君もまだ五歳だった。
それなのに、私に近づこうと話し掛けてくる貴族の男の子なんかよりもずっと強くて、かっこよくて、安心できた。
今でも学園で首席なのに、私に構ってくれる。
入学前にハル君が首席になったって聞いたとき、嬉しかったけど、どこか寂しかった。
このまま私の手が届かない場所まで行ってしまうのかなって。
でも、
ハル君はハル君のままだった。
私にいろんな知識を与えてくれた先生で、一緒に遊んでくれた友達で、危機から救ってくれた王子さま。
私が話し掛けたら面倒臭そうにしながらもしっかり答えてくれるし、魔法だって教えてくれる。
みんな王子殿下がかっこいいって言うけど、私には理解できない。
確かに顔は良いけど、頭も強さもハル君とは比べ物にならないから。
何より、私にはハル君の方が輝いて見える。
でも、そんなハル君のそばにいるためには、公爵家令嬢では足りない。
ハル君の気を引けるよう、私は自分を磨き続けないといけないの。
王女殿下には悪いけど、これだけは負けられない。
それに、今目の前にいる仮想敵にも負けたくない。
だから私はあまりハル君を語りたくない。
でも......。
これぐらいは良いよね?
そしてハルトの幼馴染みは、
「ハル君は......とってもすごい人。」
そう誇らしげに言い切るのであった。
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