狂科学者の気配
今日の授業が終わり、学園長室へ向かう三名。
「......しかしユア?」
「ん? 何? ハル君?」
「お前なんで試合のメンバーに立候補したんだ?」
「......ダメだった?」
「いや、お前は俺と一緒にいたせいもあって魔法の腕は中々のものだ。これから俺がいくつか追加で教えてやれば今回の試合にも技能だけ見れば十分耐えられるだろう。だが......。」
「?」
「いや、何処か意外でな。」
戦いは避けるタイプだと思っていた。
出会ったときは襲われかけていたしな。
「......つまり君はユア君が戦いの空気に耐えられるのかって問いたいんだね?」
横から口を挟んでくる王子。
だが間違っていないので肯定する。
「......珍しく的確な意見を出すじゃないか。」
「君の物言いには流石に慣れたけど......君の中で僕の評価がどうなっているのか聞いてもいいか?」
「虫だ。」
「虫っ!? しかも即答っ!?」
邪魔という名のな。
虫扱いにショックを受けている王子を尻目に俺はユアに真面目な顔で問う。
「模擬とはいえ戦いの緊張感に耐えられるのか?」
と。
模擬戦とはいえ、火属性の魔法が当たれば火傷するし、雷属性での感電もありうる。
そんな殺意無き痛みに耐えられるか?
これは大事だ。
ある程度痛みに慣れていないと一発食らっただけで行動不能に陥る。
一瞬そうなってしまえば後は袋叩きが待っている。
それ以前に、痛みへの恐怖で足がすくんでしまう可能性もある。
「んー? わかんないけど......。」
「ユア君は大丈夫だと思うよ? 君の気配に慣れているようだし。」
再起動した王子がまたもや口を挟んでくる。
俺の気配に慣れているから大丈夫?
どういうことだ?
「つまり?」
「いや、君のちょくちょく漏らすその......なんと言うか圧力? に曝されてもユア君は涼しい顔で居るんだよね。」
成る程。俺の存在感に慣れていると。
確かにこれに慣れたら大抵の恐怖は等しく感じなくなるかもな。
俺に付きまとっていたことが思わぬ成長をさせていたと。
どれ、試してみるか。
「ユア、今から圧力をかける。耐えられなくなったら素直に言うこと。」
「......うん?」
では十%どん。
ふむ、王子は少々顔をひきつらせているが......ユアは平気そうだな。
三十%。
王子は震えているが、ユアはまだ大丈夫そうだ。
五十%。
王子は膝が笑っているが、ユアは何かに気付いたように辺りを見回している。
「ハル君、なんか......寒くない?」
「耐えられるか?」
「うん。」
では七十%。
王子は冷や汗だらだら、ユアは少々震えだした。
「ハル君......寒い。あれ? 何で暖かくないの? ハル君......?」
温もりを求めて俺に手を伸ばすも、その寒気の大元凶が俺なので、温もりは得られず、混乱し始めるユア。
そろそろ限界か。
大体わかったので存在感を押さえる。
「ハル君っ! よかった......暖かい。」
圧力から解放され、俺にしがみつくユア。
少々負荷をかけすぎたようだ。
「きっ君ねぇ......もう少し周囲の被害というものを考えてくれないかい?」
「悪気はない。仲間の精神的強度は知っといた方がいいだろ?」
「......君のそばにいるせいか最近は父上が怖くないよ。」
「......国王に威厳なんてあったのか? 大人気もなく俺に出場命令を出しているが?」
「それは君が超人だからだよ。それに国としての面子もあるんだと思う。」
面子ねぇ......。
「少しは周囲に気を配れ貴様らぁッ!」
そして響き渡る怒号。
目を丸くするハルト達の前に人影が立ちはだかった。
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