狂科学者は引きこもりたい
パチリ
と、とある部屋の住人は目を開ける。
外はまだ暗い。
「ふぁ......。今は......」
あくびをし、何か呟くとともにその両目を光らせる。
否、両目の中心部から光が漏れた。
「......午前0時か。相変わらず便利な体だ。」
そう呟き、周囲を見渡す。
「ユア達は......ちゃんと帰ったようだな。」
......既に自明だが、声の主は勿論、ハルトである。
王女に変な言質を取られないよう、全運動神経と感覚神経を遮断し、脳の松果体からメラトニンを分泌させ、強制的な睡眠へ自ら落ちたのだ。
寝ていたため、ユア達の行動は把握できないが、別に問題あるまい。
さて、昨日できなかった分の作業を終わらすか。
まだ朝食まで六時間はあるので、手早く義手を作成する。
最初は身代わり人形で繊細な動きをしづらかったが、今では己の体のように動かせる。
お陰で作業がスムーズだ。
この義手、高いくせに以外と注文が多い。
金持ちがそれなりにいるってのもあるが、それ以上に四肢を切断しないといけない状況が多いんだろう。
この世界には魔物がいるからな。
噛み千切られることは勿論、ほっとけばどんどん全身に回ってくる毒も豊富に存在する。
まあ冒険者はそんな感じで引退する人が多いのは当然だが、普段戦闘をしない者がなんで四肢を無くすのか。それには理由がある。
金持ちが手足を切断するのは怪我ではない。
単に糖尿病で腐ったのだ。
この世界では糖分たっぷりの甘いものを食べるのも一種のステータスとされる。
おまけに甘いものは高いが旨いので金持ちほど大量に食べる。
そして運動はしない。
よって血糖値が下がらず、インスリンの受容や分泌に異常をきたし、糖尿病になる。
知っている人も多いと思うが糖尿病は重いと血流が滞り、足などの末端部位が腐る。
だからこの世界で糖尿病は『金の病』と言われている。
まあそんなこんなで使い物にならなくなった手足―――主に足―――を切り落とした貴族など金持ちがやって来るわけだ。
俺は金さえもらえれば良いので別に良いが、さらに悪化して脳卒中で死なれても変な噂が立ちそうなので血糖値コントロール用のMOを埋め込むこともしている。
ちゃんと意思確認や効果の説明はしているので、拒否するものには糖分を控えないと早死にするぞとだけ言っておくことにしている。
豚貴族でも生かしておいた方がメンテナンス代で確実に儲かるしな。
着実に利益は出ている。
手早くそこそこの商会に成長させて、俺は不労所得で悠々自適に引きこもって研究するのだ。
そしてハルトは拳を握るのであった。
理想の研究環境を夢見て。
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