狂科学者の口論
「ハル君!」
「よく飽きないな......はあ、入れ。」
「いえーい!」
また寮の部屋にユアが突撃してきた。
相変わらず元気すぎるだろ。
ったく、俺は医者の真似事で忙しいって言うのに暢気な奴め
身代わり人形を通して遠隔で義手を作っていたハルトが目を開ければ、そこには憎たらしいほどの満面の笑み。
「何だ? 俺は今結構忙しいのだが?」
「うんとねっ、ハル君に会いたいって友達が言ってたから連れてきたの!」
はぁ。
そうですか。
「......今は忙しい。勝手にそこら辺へ触れないと言う条件で会おう。」
こうしている間にも俺は義肢を作っているのだ。
運悪く数人が一気に依頼してきたのでな。
「......だそうです。それで良いですか?」
公爵家のユアが敬語?
そのお友達はどこの誰だ?
「......ハル君、それでも良いって!」
まあ条件を飲むなら良い。
「どーぞ。」
「えっと、こんにちは。先日助けてもらったラファエラ·ジェラード·ウェルマニアです!」
ん?
何かとても見覚えのある顔だ。
エメラルドっぽい緑の髪と蒼色の目。
それに名字も聞き覚えがある。
ハルトの目が光り、さくっと顔面でデータベースに検索をかける。
結果は言うまでもない。
ラファエラ·ジェラード·ウェルマニア
この国の王女だ。
いや何てもん連れてきてくれたんだこの幼女。
地雷を蒔かんでくれ。
「一国の王女ともあろう人物が何のようだ? 生憎俺は忙しいんでな。手短に話せ。」
こうしている間にも俺の思考は義手製作に割かれているのだ。
そろそろ自動化した方が良いか?
別に出力の調整とサイズの変更、ソケットの形以外全部同じだし。
今度テンプレートを作っておこう。
「......目だけ動かして、何をしているんですか?」
作成作業は視線で行っているため、そんな俺に気付く王女。
「作業だ。」
これ以上触れてくれるなという言外の意を含ませつつ、その質問に簡潔に答える。
本でも開いておいた方がよかったか?
「そうですか......?」
いまいち納得できないといった様子で、だが引き下がる王女。
で、
「何用で特に面識もない男の部屋を訪問した?」
「面識はありますよ?」
「そんな一瞬の出来事で信用が築けると思ったか?」
公爵が聞いてこなければ順当に俺の脳から削除されていた筈だったのだ。
さっきもお前の顔は見覚えがあっても、お前自身の地位や存在は覚えてなかった。
そう冷たく突き放すハルトの物言いに見かねたのかユアが口を開く。
「ハル君、いくら興味がないからってそれはちょっと......。」
「ユア。お前の存在が俺の記憶の一%未満でも占められていること自体奇跡だからな? 俺に人を覚える能力を期待しても無駄だぞ?」
「私がハル君の頭に居る......はっ!? ハル君っ! そんなこと言っても誤魔化せてないからねっ!」
「俺が何を誤魔化したというのだ?」
俺の記憶に残るほどのしつこさといい、相変わらずよくわからん奴だ。
「む~......このばかハルトっ。」
「失礼な。俺は天才科学者だ。というかハル君呼びは卒業か?」
「......ばかハル君っ!」
「それはそれで違和感が......」
「ハル君のばかぁ~!」
「いやだから俺は天才であって馬鹿ではない。」
「......あの、ユアもハルトさんも私のこと忘れていません?」
二人の口論に、王女の物悲しそうな呟きは消されるのであった。
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