狂科学者の侵食
「お主の価値観にもよるが......まあお主がそう感じるんであればそうなんであろう。」
「助けてくれ。このままでは解析機関行きを望んでも名誉職を与えられるだけで本質は王女の婚約者候補という意味がわからないことになる。」
「くははっ。さすがのわしも陛下には逆らえん。」
「そこは従兄弟だろ?」
「無理だ。」
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「......叔父さん、新しい義手の使い勝手はどうですか?」
「意識が飛んでいるのかと思いきやいきなり顔をしかめたりして......大丈夫かい? ちゃんと寝てる?」
「ははは寝てますとも。少々世の理不尽さを呪っていただけです。」
「そうかい......いや本当に大丈夫かい? 悩み事があったら聞くよ?」
「いや、大丈夫です。多分。......ところで義手の調子はどうですか?」
「......こっちの方が良いね。なんと言うか......自分の一部って感じが強い。これも僕の頭に入れた『魔法生物』という奴の効果かい?」
「その通りです。」
今回、各種技術の開発にともなって叔父さんの義手もグレードアップした。
最新のMB建造技術を使って微細な感覚を強化し、人工筋肉と骨格の出力も上げ、脳へ魔法生物を投与することで情報網の高速化や脳との親和性の向上など更なる機能向上を図った。
そして今回の大目玉が、
「叔父さん、新しい武器を紹介するので『砲身展開』と呟いてください。」
「ん? 『砲身展開』......!?」
呟かれたキーワードを脳内の魔法生物が解釈、義手の機能の一つを起動する。
多数の魔法陣が義手を起点に連なり、交わり、一本の砲身を形作る。
その根本付近には球体の多重魔法陣が出現し、供給される魔力を純粋な破壊エネルギーへと転換していく。
「......見たことのない魔法だけど......これは何だい?」
「これは魔道具を調べて判明したいくつかの原理を応用して作った『多陣武装』です。」
それは魔法陣が二次元の存在として三次元に固定される法則を利用し、魔法生物に搭載されたスーパーコンピューター並みのマシンパワーを用いて構築される魔法陣で作られた兵器。
魔法陣は二次元ゆえに密度が無い。
密度がないゆえに重さがない。
物体ではないため収納しなくて良い。
義手の軽量化。
それが元々のコンセプトだ。
兵器ではあるが同時に魔法でもある。
多数の魔法陣を一つの現象を起こすために利用する。
この実体を持たない砲身そのものが一つの魔法として機能するのだ。
まあ結構魔力を食うのが難点だが......その分旧式の砲身が無くなったからな、そこに使われていたカーボリウム分の重さを考えればお釣りが来るほどバッテリーを詰め込める。
ちなみに俺も持っていたりする。
必要なのは魔力と構築時の演算能力だからな。
体内に魔法生物を入れまくった俺はどちらも腐るほどあるのだ。
何はともあれ、叔父さんはドラゴン素材の大事な供給源だからな。
戦闘能力の向上は当然の投資。
他の魔物素材も使わないことはないんだが......やはり耐久性や魔力との親和性はドラゴンがダントツで一位なのだ。
『ハルト、そろそろ夕飯だ。帰ってきなさい。』
『はいはい。』
そろそろ試射してもらおうと思っていたんだが……まあ良いか。
安全性は既に確認してある。
お陰でまたドラゴンの鱗を大量に消耗したがな。
話は変わるが、助手含め家族全員に魔法生物は投与済みだ。
そのせいで家に帰ってこいと父さんが煩くなったが......商売がはかどるようだし仕方ない。
父さんには俺が安心して研究できる基盤を維持してもらわなければならんのだ。
今の父さんなら複利計算を暗算で数秒以内に出来てしまう。
ハルトの野望は着々と広がっていくのであった。
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