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狂科学者、回路を刻む。


 魔水の存在を知ったハルトは気付いた。

 

 どんな複雑な機械を作るにしても、人間の脳か高性能な制御用の演算装置が必要だと。


 じゃあ電子回路を作ろう。

 となる訳ではない。


 大前提としてこの世界には電池がないのだ。もっと言うと高純度のシリコンもないから回路素子や基板なんてもっての外。

 つまり電子機器の類いは大体アウトになる。



 じゃあ、


 「無属性の魔法陣を素子にして電気の替わりに魔力を流せばいい。」

 と言う結論に達したハルトは、家に帰って即座に愛用の石板を引っ張り出し、最近購入した作業台に向かう。


 そして可能な限り小さく、だが正確に大量の魔方陣を刻み込む。

 縦横に綺麗に並べられた魔方陣の間を接続する大量の線。


 それ等はまるで、回路の基板のような何処か人を魅了する造形に仕上がっていく。


 「魔力で動くから魔力基板と言ったところか。」


 出来上がった回路を満足げな笑みで眺めるハルト。

 そして新しい石板を取り出し、回路の刻まれた石板と共に手をかざして、


 「土よ、陣を万分の一に圧縮して全体に刻め。」


 そう唱えながら魔力を込めれば、びっしりと刻み込まれる魔方陣。一万分の一に縮小された極小魔方陣が一万個複製されて石板を埋め尽くした。


 そして今度は棚から縦横五センチほどの薄い鉄板を取り出し、

 「土よ、指定した陣を最低限に圧縮して刻め。」


 そう唱えれば、もはや見えないレベルにまで圧縮された魔法陣が鉄板に刻まれる。


 そして仕上げに、買って置いた魔石を一つ取り出して、

 「土よ、溝を魔石で完全に埋めよ。」

 

 すると魔石の端っこが音もなく削れて鉄板に刻み込まれた魔法陣の溝を埋める。これによって魔石が魔力の通り道となりつつ溝を保護してくれるのだ。


 「よし。」

 とつぶやきながらハルトは手に持った鉄板を眺める。

 この基板に刻まれた魔法陣は、すべて同じ無属性の魔法陣なのだ。

 一つ一つに刻まれた命令は、別の魔法陣から入力された魔力を他の魔法陣へ出力しろという非常に単純な内容。

 だがそこにハルトは一つの変数を加えた。

 初期状態ではこの魔法陣達、回路の抵抗のように本当に微量の魔力しか通さないのだ。つまり全く役に立たない。

 しかし頻繁に魔力が通る魔法陣のみ、徐々に通す魔力量が増えていく。

 加えて使用されなくなった魔法陣は非常にゆっくりと魔力を通しづらくなっていく。

 そうすることで使用すれば使用するほど、使用者の癖を学び、使用者の変化にも対応する、柔軟な回路へ成長する。


 それは脳機能の縮小版。

 与えられた刺激と求められる出力を関連付け、学習してゆく機能。

 地球ではAIコンピューティングで脳の機能をシミュレートしようという取り組みがあったが、シミュレーションには膨大な処理能力が必要。


 物理的に真似る方が効率が良いのだ。そしてここには魔法というぶっ壊れた機能の加工技術があった。


 なぜハルトはパソコンに使われる普通の回路を作らなかったのか。

 論理回路を知らなかったから?

 プログラミングができなかったから?


 答えはNOだ。

 ハルトはどちらに対しても深い知識を持っている。

 だが、今回ハルトはパソコンを作りたいわけではないのだ。

 あくまで産業を発達させつつ人体改造の研究をしたいだけなのだ。


 それには使用者の神経活動を観測し、学習し、使用者の思い通りに動き、感覚を返す人工の肉体には学習して進化するチップの方が簡単で有能だったのだ。


 あとは魔力を伝導できる糸と、感覚素子の二つさえ手に入れば義手を作る上で必要なものは大体そろう。


 

 制御端末と高性能な義手を作るということは、モーターのないこの世界に手作業の機械化をもたらす。



 だが今は、





 「づかれた......。」

 成人数人レベルの魔力を消費することで強引にミクロサイズの魔法陣を刻ませるという、無茶な魔法の連続起動はハルトに大きな負担をかけたのだった。



 (おやすみ......。)

 そして襲ってきた倦怠感にハルトは意識を手放した。



 

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[気になる点] 最後のセリフが「づがれだ〜」でもいいと思います(粉みかん) [一言] 面白い
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