狂科学者の脳改造
「所長? 何こっそり自室で研究しているんですか?」
「む? なぜ分かった?」
「いや、所長が研究したらそこの『ログ』に残るじゃないですか......。もっと休んでください......雇われている我々のためにも。」
「ふむ、ログを残らないように細工をすればいいか?」
「普通に寝てくださいッ!」
しかし助手達も大分この環境になれてきたようだな。
この中世風の異世界に持ち込まれた新技術にも順応し出している。
なかなか柔軟な奴等だ。
実験体はおじゃんになってしまったが、計測してきたデータは無事だ。
すでに脳味噌の活動はリアルタイムで出力できるようになった。
人に投与しても危険性がないことは確認済。
ならば次は自分で試すのが定石。
というわけでハルトは自分用に調整をした魔法生物の保存容器に頭を突っ込んだ。
脳の神経細胞に浸透した魔法生物達はハルトから溢れる潤沢な魔力を糧に増殖、その内包する命令を実行する。
耳の後ろのMOに搭載された変換器を通じて二進法の信号を脳に適したものへとエンコードする機能も構築される。。
全身の神経組織に広がる魔法生物は相互に情報を伝達し合い、俺とデータの境を消していく。
ここまでの段階、一見簡単なように見えるが、その技術開発は大変だった。
脳の記憶という混沌としたデータとデジタルデータを相互に変換する機能の開発は特に。
生命体はその固有の脳味噌に蓄えられた情報を己の意識というデコーダーで翻訳し、活動として示すことで知性を表現している。
それゆえ意識無き者の脳からは情報は引き出せなかった。
そのデコーダーに決まった公式はなく、それゆえ我々は人類の頭脳を直接覗くことができなかったのだ。
しかし、だ。
人はその変化し続けるデコーダーを用いてもあらゆることに一定の解を示せる。
何故か?
それは五感と運動を制御する神経によって日々規則性の変わる意識という暗号を翻訳できるからだ。
ならば全ての神経を掌握できる魔法生物を活用すれば変換器は作れる。
二進法の信号を二次元の画像として直接視神経に入り込んだ魔法生物へ伝える。
そうすることで二進法の画像データを視神経という変換器を通して変換できるのだ。
そしてその変換器を通り、脳に適した形へ変えられた情報は脳に重なる魔法生物が記録する。
そして情報を海馬を通して絶えず循環させていく。
こうすることで脳に記録されなくとも魔法生物の記録を出力することで脳は同じ情報を思い出せるという寸法だ。
勿論逆を行うことで出力もできる。
変換器の共有と記憶の分割。
これこそが俺が地下での三日間で開発した技術だ。
記憶の分割によって自己の定義が難しくなるだろうが、そんなことは些末な問題だ。
俺の潤沢な魔力で強化された思考はほぼタイムラグ無しに二進法との接続を行えるようになった。
この事実が内包する可能性は大きい。
意思の明確な情報化。
これによって詠唱無しに魔法の起動も行えるようになる。
遠隔で己のアバターを操作することも容易くなるだろう。
魔法生物による新種の知的生物創造もできるようになるかもしれない。
取り敢えずメインコンピューターと繋がれるようになったのは大きい。
わざわざプログラミングを指でやらなくても俺の意思ひとつで出来るようになるのだ。
これで助手にも気づかれずに研究をできる。
助手達を出し抜くのが楽しみなハルトであった。
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