狂科学者の探究心
「うーむ」
そうハルトは首を捻る。
目の前にあるのは随分前に襲撃してきた魔法使い達の脳。
ただし端子が刺さりまくって配線でぐちゃぐちゃしているので少しピンク色の皮質が見える程度だが。
初めての長期休暇で研究所に戻ったハルトはまた新しい研究を始めていた。
テーマは脳機能の拡張。
感覚を拡張することで、更なる機能や高次元の思考を可能にしたいと思ったのだ。
しかしそこには問題が一つあった。
新しい感覚や思考の追加という目的には、端子を用いた物理的な相互接続は不向きらしい。
どんな理論の元そうなっているのかはわからない。
魔力信号と電気的信号を変換するタイムラグは無いに等しいが、何故か上手くいかないのだ。
意思を反映する魔法陣は元々入力も出力も信号が曖昧かつ希薄なので論外だ。
杜撰な陣を微調整するためだけにあるようなおまけだからな。
もう少し踏み込んだ接続をしないといけないのかもしれない。
かといって鋼線と神経繊維を物理的に融合させるわけにもいかないしな......。
なんとか魔力信号を感知できるように細胞を改変したいのだが......
魔石を埋め込むにも細胞は小さすぎるしな......。
治癒魔法での機能編集も試したが無理だった。
第一そもそもの次元が違う。
物理的な知覚ではない、もっと違う感覚。
俺の推測通り魔力は魂に帰属する物のようだ。
魔法陣や魂の感覚というフィルターを通して漸く知覚できるものを、細胞という科学現象の塊に検知しろってのに無理があることぐらいは分かる。
次元、次元か......。
今ある理論で行くと魂は次元の異なる肉体と情報を共有できるということになるが......
それも交信する脳があっての話だ。
脳のない肉体は生きていても魔力を発しないからな。
......ん? 脳?
もしや、神経の塊が発する限りなく無秩序な情報が関係あるのでは?
外界の刺激を受容し、内包する不安定な情報のカオスに変換すること、それ自体が魂との接続を保っているとすればどうだ?
混沌であるがゆえに高次元との接続を可能にしているとすれば?
それならば明確な情報を内包するコンピューターに魂が宿らないことも納得できるし、表層のみを繋げてもどうしようもない。繋げるとしたら深くまで端子を刺しまくらなければいけないだろう。
成長するにつれて受ける様々な情報が入り乱れ、日々拡大する脳内のカオスはより高次元との交信を円滑にし、思考の明瞭さを増す。
だとすれば特定の神経一つ一つを繋げるのは意味が無い。
カオスであることが大事なのに情報を明確にしてどうする。
......少し思考がずれたな。
今の問題は如何に上手に脳との情報交換を行うかだ。
それには......
ハルトはだんだんと深まっていく考察に没頭するのであった。
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