狂科学者は一人部屋
「ふう......」
俺はベッドに腰掛けて一息つく。
今日から学園での寮生活が始まる。
それに合わせて部屋も支給された。
大抵二人部屋のようだが、俺の部屋だけ一人部屋だ。
これが首席への優遇なのか単純に相方がいなかっただけなのかは激しく疑問だが、これからに支障はないな。
なんにせよ、一人であれば色々やり易いから良いことだ。
まだ夕飯まで時間があるな。
時間を確認した俺はベッドに寝っころがり、持ち込んでおいたマジックサイトを起動する。
そんで研究所の監視カメラを適当に覗き、異常がないか確認。
軽く両親と公爵にメッセージを飛ばし、近況報告。
そうこうしていればもうすぐ夕飯。
ハルトはマジックサイトを仕舞って食堂に向かった。
****
「あーハル君!」
俺を見つけるなり即座に声を掛けるユア。
相変わらず元気な顔をしている。
こっちこっちと手招いてきたので仕方なく食堂のおばちゃんから食事のトレイを受け取り、ユアの席へ向かう。
「今度は何の用だ?」
「モグモグ......ん、えっとね、この人達がわたしやハル君の魔法の秘密が知りたいって来たんだけど、わたし難しいこと解らなくて......」
成る程。
軽く見回せば痛いほど突き刺さってくる視線の数々。
恐怖、興味、疎み等々いろんな視線が混じりあっている。
さて、
どうしたものか。
ユアはずいぶん前から簡単にだが基礎的な科学的法則を教えていたから飲み込みが早かった。
だから熱という概念を伝えることができたのだ。
この世界では皆理系方面に関しては前世の義務教育の数十分の一程度の教養しかない。
大体小学生の低学年レベル。
それで今すぐ理論を理解するってのは......まあ無理だろうな。
酸素を知らずに燃焼は理解できない。
そういうことだ。
それ以前の問題もある。
取り敢えず鑑定眼で魔力を観測。
「ふむ......ほうほう......」
魔力の操作もなっていないな。
只でさえ少ない魔力が駄々もれだ。
無理だな。
なら答えは一択。
「もっと魔法を勉強して鍛えてから出直してこい。今教えたところで一生出来るようにはならないと断言してやる。」
ユアは魔道具で溢れている研究所で遊んでいたせいか魔力操作が上手い。
それこそ呼吸をするレベルで。
魔力が漏れていると指摘した瞬間、隠蔽を理解したからな。
六歳の頃か?
俺の場合は拘束具で制限された状態が長かったからな。
微細な魔力操作が得意なのだ。
大雑把にも繊細にも使える。
つー訳でお前らとは土台が違う。
出直せ。
「お前! 首席だからって調子に乗るなよ! いいから教えろっ!」
ん?
「まず名乗れ。」
「僕はズーベルト公爵家の長男、バスコ·ズーベルトだっ! お前の家なんて父様に言いつければ直ぐに潰せるんだぞっ。」
あ、以外と大物だな。
いろんな意味で。
まあ政治的ななんやかんやはメルガルト家に丸投げできるだろう。
後でメッセージを飛ばしておくか。
しかも今や世界規模の大商会となっているニコラ商会を潰すとかそこらの貴族を潰すより大変だと思うんだが。
後々損もするだろうし。
「それはそれは、是非とも潰しに来てくれ。」
逆に食いつくしてくれる。
実験体が増えるのは良いことだ。
「ごちそうさま。」
もうここには用はないと、ハルトは席を立つ。
「あっ、ハル君待ってぇー。」
惚ける者達の中で、ユアだけが一人慌てていた。
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