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魔王のパパと勇者のママと  作者: ひよこの子
第Ⅰ章-② 鬼蜘蛛
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第42話

宜しければ、感想・評価お待ちしております。


「んッ! や、んん、やぁぁぁ!」


 逃げようと藻掻く彼女の顔を、緑王熊ベルレォッサが舐めあげていく。その姿は、まるで子どもの毛づくろいをする親のようであった。


「…………」


 その光景に、レオはどうしたものかと固まってしまう。

 緑王熊ベルレォッサから敵意は一切感じられない。むしろ、どこか嬉しそうな雰囲気すら醸し出す彼の様子に、少なくとも大人たちから聞いていた緑王熊ベルレォッサの情報と異なり過ぎて、しかも、多くの出来事が起こり過ぎてショート寸前であった。


「ぐま」


 彼女の顔から涙が消えたことを確認した彼は、満足したのか舐めるのを取りやめる。その分彼女の顔は彼の涎でべとべとになっているのだが……。


「ぐま」


「ぅ!」


 そして、彼はぐぐっと身体を伸ばしてレオのほうへと近づいてくる。鼻先をふんすふんすと鳴らしながらしきりに顔をレオへと近づけていく。


「な、な……ッ! …………あれ?」


 やっぱり食べる気か! と、身体を強張らせるレオであったが、近づく彼の鼻先に見覚えのある傷を見つけてしまう。


「え? うそ……」


 レオの言葉に、緑王熊ベルレォッサの顔がぴくりと反応する。意外なまでにつぶらなその瞳に映るのは期待。


「もしかして、……」


 思い出される四年前の記憶。

 あの嵐の日の記憶。


「ベリー?」


「ぐまぁあああ!!」


 《《呼ばれることのなくなってしまった名を呼ばれ》》、彼は嬉しそうに天に吠えた。



 ※※※



 四年前の嵐の日。

 レオは、助けを求める声を聞いた。


 外は嵐で、声なんて聞こえるわけがない。そもそも、村人はみんな村長の家に集まっていて誰か危ない目に合っているはずがない。

 諭すアドラに、それでも聞こえるとレオは黙らなかった。


 無理にでも寝かせようとする母に業を煮やした彼は、大人たちの目を盗んで外へ飛び出し、声のする方へと走っていく。

 後ろから必死で止めようと走る母の言葉を無視して、彼がやってきた村のすぐ外にある川は氾濫しており、普段の優しい表情とは打って変わった恐ろしい顔をしていた。


 追いかけてきた母に捕まって、珍しく声を荒げられて叱られてしまったが、それでも聞こえてくる声が止まることはない。


 どうしてもと叫ぶ息子の姿に負けてしまったアドラが一分だけだと一緒に追いかけてきた大人にレオを預けて、周囲を探せば、氾濫した川の真ん中、少しだけ顔をのぞかせる大岩の上に、一匹の子熊が鳴いていた。


 そして助けられた子熊がベリーである。

 育てたいというレオの要望に大人たちは大反対を示した。アドラもこればっかりは、と許してはくれなかった。

 それもそのはずで、ベリーは緑王熊ベルレォッサだったのだ。おそらくはあの嵐で親と逸れてしまったのだろうが、それでも育てることは不可能なことである。

 なまじ育てることが出来たとしても、大人になれば間違いなくベリーによって村は滅ぼされる。それほど、緑王熊ベルレォッサは危険な生き物だったのだ。


 泣いてお願いするレオに、それでも大人たちが許可を出すことはなかった。ただ、瀬中案として、嵐が収まり少しの間だけは、ベリーを飼うことを許された。

 期間としては七日間。

 たった七日であったが、レオは必死にベリーを育てた。元々生命力の強い生き物である。嵐で負ったのであろう傷もすっかり癒えたベリーは、アドラの手によって山へと帰されていった。


 そのベリーが、いま、彼の目の前に居る。



 ※※※



「ベ、リー? 本当に、ベリーなの……?」


「ぐっま! ぐまぁ!」


 名を呼べば呼ぶほどに彼の機嫌がどんどんと良くなっていく。ついには身体を左右にゆすり出した。


「あは、あはは……。ほんと、うにベリーなんだ……」


「……レオの、ともだち?」


「七日間だけ、だけど、家族……だったんだ」


「おー」


 レオの言葉を聞いて、彼女はベリーの身体を恐々と撫でていく。彼女の行動に、ベリーは目をつぶって気持ちよさそうに喉を鳴らす。


「おー、いし、なげてごめん、……なさい」


「ぐまぁ~」


 気にするな、とばかしに気の抜けた鳴き声をあげる。

 そんな彼女たちの様子にほっとしたレオは、ゆっくりと意識を手放していった。


「レオ!?」


「ぐまッ!?」


 彼の左腕からは、いまもなお血が流れおちていた。


「ベ、リー!!」


「ぐまッ!!」


 モニカがベリーの身体をぺしぺしと叩く。

 彼はレオの身体を優しく咥えこむと、しゃがみ込んでモニカに背に乗るように視線を送る。


「んッ」


 モニカが背に跨ったことを確認した彼は、猛ダッシュで山の中を駆けていくのであった。


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