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魔王のパパと勇者のママと  作者: ひよこの子
第Ⅰ章-② 鬼蜘蛛
34/116

第34話

宜しければ、感想・評価お待ちしております。


 駄目だよと言われていた。

 勇者であることは恥ずかしいことではない。むしろ誇るべき素晴らしいこと。だけど、特別でもあるということ。

 特別というものは時として危険を招き寄せることもあるということ。


 だから、無闇に自分が勇者であることは他人には言わないように。

 母に何度も言われたことであり、普段は母と意見の合わないディアナでさえ賛同したことでもあった。


 でも。

 と、同時に少年は思う。


 目の前に居る小さな少女。おそらく恐怖で小さく強ばってしまっている少女の不安を少しでも和らげることは出来ないだろうか、と。

 母のようにまだ強くはない。彼女の父やディアナのように魔法が得意なわけでもない。村のみんなのように面白おかしく人を笑わせることが出来るわけでもない。


 そんな自分に今この場で出来ることを少年は考える。

 考えて、考えて、ついうっかりで言いそうになった言葉。


 駄目だよと母に言われた言葉であるが、目の前の少女の不安がそれで少しでも軽くなるというのなら……。

 あとで怒られよう。それは少し、いやとっても怖いけど。



「だって、僕は勇者だもん!」



 母に怒られることよりも、ディアナに叱られることよりも、

 目の前の少女が笑ってくれることのほうが大事なのだから。



 しかし、



 少年の予想は大きく裏切られた。

 村のみんなは自分が勇者であることをそれはそれで誇りに思ってくれていた、時折やってくる城の人たちだってみんな勇者であることをとても褒めてくれる。

 母であるアドラだけは、時々寂しそうな目をするけれど、それも一瞬だけで、勇者であることを、自分の息子に生まれてくれたことをいつもありがとうと言ってくれていた。


 だが、目の前の少年が勇者であると告げられた少女の反応は、いままで接してきた誰もが取ったことのないものだった。

 元々大きくくりくりとした瞳が更に限界にまで開かれ、びくりと身体は固まり、少しずつだが少女は彼から距離を取ろうとする。

 まるで、化け物と出会ったしまった無力な存在が取る行動の様に。


「ど、どうしたの……?」


 どちらかと言うまでもなく自分に懐いてくれていたモニカが取る行動に、レオは混乱し不安に陥る。


「ゆ、う」


「え?」


「レ、オは……ゆうしゃ……?」


「うん! そうだよ。だから、安心して?」


 母は勇者が特別だと言っていた。もしかして、珍しい存在であると分かって驚いているのだろうか。だけど、彼女の役割も珍しいものだったしなぁ……、と少しズレたことを思ってしまう。

 そんなのんきなことを考えていてしまったので、続く彼女の言葉に彼はすぐに反応することが出来なかった。


「レオは、モニカをころすの?」


「……………………へ?」


 少女の瞳には、はっきりとレオに対する恐怖が浮かんでいたのであった。



 ※※※



 駄目だよと言われていた。

 魔王であることは恥ずかしいことではない。むしろ誇るべき素晴らしいこと。だけど、特別でもあるということ。

 特別というものは時として危険を招き寄せることもあるということ。


 だから、無闇に自分が魔王であることは他人には言わないように。

 父に何度も言われたことであり、父と仲良しの友人たちも賛同したことでもあった。


 あとね。

 と、同時に父の友人たちは言う。


 勇者にだけは気をつけなさい。

 良い悪いは関係なく。勇者という役割を持つ存在には気をつけなさい。奴は君を殺す存在だと。


 魔王であることをバラすこと以上に、何度も。何度も何度も何度も何度も言われた言葉。決して自分を怖がらせるためではない。本当に自分を心配して言ってくれていることが分かる言葉を彼らは言う。


 その言葉に最初は頷いていた父が、ある日を境に苦い顔をするようになった。そして、それからすぐに父に連れられて旅に出た。


 旅は楽しかった。

 ずっと城のなかで暮らしていた彼女にとって、見るもの聞くもの全てが新鮮で。そして、なにより普段はあまり一緒に居ることが出来ない父とずっと一緒に居れたから。

 同時に危険が隣り合わせであることもなんとなく理解はしていたが、それも父がずっと守ってくれていたから怖くはなかった。


 そして、

 生まれて初めての友だちが出来た。


 ずっとずっと友だちが欲しかった。

 だけど、周りに居るのは大人ばかり。同世代の子と遊びたいという意見が通ることは一度もなかった。

 だからこそ、初めて出来た友だちが。レオという名の少年が、自分の手を取ってくれたことがとても嬉しくて、



 その彼が勇者だなんて知りたくなかった。


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