第31話
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クリスティアンの魔法で巻き起こる暴風が鬼蜘蛛を切り刻み道をこじ開ける。
生まれた隙間にアドラが突っ込み、空間があれば大剣を、なければ自慢の脚力で魔法から運良く逃れた数匹を潰していく。
洞窟の中は複雑に入り組んでいるけれど、鬼蜘蛛がやってくる方角に母蜘蛛が居るのは間違いない。それさえ分かっていれば、迷うこともなく二人は先を急ぐ。
「アドラ、さっきから鬼蜘蛛の大きさが」
「ああ、今までと比べて少しばかし小さい……なッ!」
クリスティアンが言い終える前に彼女は彼の言いたい内容を応え、そしてながら作業で足元の鬼蜘蛛を蹴り殺す。
彼女たちがさきほどまで戦っていたものと比べると若干一回りほどではあるが小さい鬼蜘蛛が増えてきていた。
「向こうも元々居た兵力使い潰して焦ってんだろうよ」
「やっぱり……、撃退用の鬼蜘蛛だとしても少し小さいってことは」
「急激な成長スピードですら対応しきれないほどにあたしらが本陣に近づいてんだろ! おらァ!!」
「だよね。なら、急がないと!」
いくら尋常ではない体力と魔力を誇る二人とはいえ、ここまでくるのは無傷というわけにはいかなかった。
特に前を走るアドラの身体には無数の切り傷が走り、多少ではあるが血も流し始めている。
それでも最初と比べて多少程度でしか動きが悪くなっていないのだから、やはりどちらが化け物か分かったものではない。
クリスティアンの言葉にアドラは当たり前だとばかりに鬼蜘蛛を蹴り飛ばし、確実に奥へと進んで行く。
彼女の服装は、体液のせいで元の色が分からなくなるほどに汚れており、それは彼女の肌も同様ではあるが、ギラギラと輝く彼女の瞳は野性味を帯びており危険と同時に美しさすら感じられるほどであった。
※※※
「うら、どけェ!!」
ひと固まりとなり壁になっていた鬼蜘蛛達を大剣の一振りで薙ぎ飛ばす。
彼女たちが勢いそのままに飛び込んだのは、手狭だった今までの道とは打って変わって巨大な空間だった。
五十メートル四方はあるのではないかと思われるほど大きな空間には、天井に大きな穴が開いており、そこから太陽の明かりが漏れ出ている。
当然、その空間を埋め尽くすの大量の鬼蜘蛛は健在で、侵入者である二人に牙を向いている。
そして、
「見つけたァ……!」
「母蜘蛛にしては……、少しだけ小ぶり、かな?」
空間の中央には、鬼蜘蛛に守られるようにひと際巨大な母蜘蛛が存在し、二人に分かり易い敵意を向けていた。
クリスティアンの言う通り、ギリギリ全高が一メートルに達するかどうかといった具合の母蜘蛛としてはまだ幼く小さな個体ではあるのだが、通常種に慣れてしまっていればそれでも立派に巨大な蜘蛛の化け物である。
牙をガチガチと鳴らしながら、どんどんと今この時も新たな子を産みだしていく。直径十センチにも満たないような黒い球体として生み出された子は、まるで早送りでもするかのようにみるみるうちに成長し、あっという間に周囲の鬼蜘蛛と変わらないほどにまでなっていく。
「知っちゃいるが……、実際に目の前で見ると恐ろしさを通り越してあきれ果てる成長具合だな、おい」
「長期戦をしたら不利でしかない、一気に決めるよ!」
「開幕一発、任せた」
詠唱を始めるクリスティアンを守るように、彼に飛び掛かる鬼蜘蛛を大剣の一振りで粉砕する。
「チャノ」
彼の周囲の空気が変わる。
力ある言葉に反応し、体内の魔力が身体中を駆け巡りうねりを上げていく。
「ティ チー」
魔力を媒体に、呪文を鍵に、
魔法は世界に働き掛け、その形を変えていく。
「ミコ」
だからこそ、魔力の多さ、呪文詠唱の正確性が魔法の威力に大きくかかわると過去多くの学者が唱えてきた。
だが、彼は魔法にはもう一つ大事なことがあると信じている。
それは、想いの強さ。
自分が魔法で何を為したいか。
その想いの強さが、魔法の威力に大きな変化を及ぼすと信じていた。
気合と根性だけの論理性のないくだらない理論。
聞いた多くが鼻で笑った持論を、それでも彼は今も信じて魔法に想いを込める。村で自分の帰りを待つ娘と一緒に生きていきたいという彼の想いを込めて。
「ピフルァ!!」
巨大な火の玉が、母蜘蛛を飲み込まんと放たれた。




