2 ハゲ
ハゲェ……
「ダメだったんだけど。え、なに? もしかして僕騙された?」
「いやいやそんなはずないって、そんなことってある?」
「なっとる! やんけ! うっ、大声出したら傷に染みる……」
保健室のベッドの上。いや1日に二回もここで寝てるとか大丈夫か僕。絶対大丈夫じゃ無いな。間違いない。
「黒澤ぁ。こりゃァいったいどういうことでェ。ワシを騙したんかいのォ?」
「なんでヤクザ口調なん? というか怪我のたびに保健室まで呼び出すのやめてくれる?」
「しゃあないでしょ。だって目が覚めたらベッドの上で、お腹のあたりがめっちゃ痛いし。アバラ何本かイってるよこれ。わかるよ僕、経験則で」
「経験則なんだ……」
黒澤は可哀想なものを見る目で僕を見た。僕は悲しい気持ちになった。
「てかさあ、ここの治療って有料じゃん。それも一回40万とかする感じのやつ。僕に払える訳ないじゃん」
「え? それホント?」
「マジマジ。でもさ、僕には黒澤が居るから」
「ちょ、なに言ってんのホントやめてってば。っていうか私の治療魔術でしょ目的は」
「まあそうなんだけど。いやホント助かってるよ、黒澤がいなかったら僕はとっくに死んでるか借金地獄に沈んでると思う。割とマジで。いつもありがと、黒澤」
「ん、まあ、いいよ……。私にとっては大した手間じゃないし、別に。いやでも問題なのはそう頻繁に私のお世話になる君の方だと思うよ。もう保健室の先生に顔と名前覚えられてるんじゃない?」
「うんバッチリ。なんなら仲良いよ。でも治療代は全くまけてくれないんだ……」
保健室の先生は今は外している。多分タバコだ。重症の生徒をほったらかして一服しに行く保険教諭の屑である。いやまあ、あの先生も黒澤が来ることをわかっているんだとは思うけど。
「はあ。仕方ないなあ三島。ほいぽぽぽーっとな」
「あー、うん、染みる、染みるわ。優しさっていうか魔術が染みる。ふあー助かったもうマジで今回ばかりは死んだと思ったマジ」
ベッドから体を起こして伸びをする。あー気持ちい。アバラ折れてると伸びするだけでめっちゃ痛いから、ちゃんと伸びできることが嬉しい。
「そういえば今更だけどさ、なんでこんな怪我したの?」
「いやなんか天王寺にやられた」
「あー、三島。君さあなんか余計なこと言わなかった?」
「あー、言ったかもしれん。それかなぁ」
「それだよぉ〜」
気の伸びるような会話が放課後の保健室で繰り広げられていた。あ、なんか平和だわこの感じ。あーなんかいい感じだわー。
「っていうかさ、ぶっちゃけ三島は怒っていいよ」
「僕がぁ? 誰にぃ?」
「いや文乃ちゃんに。いやさ、あの子の親友としてこんなこというのもなんだけどさ」
「はあ、天王寺にねぇ」
「ぶっちゃけ三島は保健室送りにされすぎじゃない?」
「まぁ」
「週一ペースだよ。入学してからもう6回以上はここ運び込まれてるからね。今日のも合わせて四捨五入して10回だよ。多すぎるって」
「んにゃ、まあそうかもなぁ」
「そりゃあの子昔男の人に酷いことされそうになったトラウマがまだあるから、その癖があるのは仕方ないけどさ。それにしたって三島は寛容すぎるって」
「いやーだってしゃあないって。怒る気になれないもん」
「ホントに? 三島は怒らない人なの? 叩いていい?」
やめろって、とツッコんで僕は苦笑いした。
「だってさあ。僕をぶっ飛ばす度にあんな申し訳無さそうにしてるの見たらさ、本気で反省してるし後悔してるってすぐわかるじゃん。そんな人に怒れないってマジ。泣きそうになりながら謝ってくるんだよ毎回」
「え、じゃあ怒ってないの?」
「いやまあ、毎度毎度僕の骨持っていくのはまあどうにかしてほしいけど」
「はぁー……。あんたは優しい人やねぇ〜」
「え、なにそのおばあちゃんみたいな話し方。どしたの」
「いやあ。こんなんだから文乃ちゃんを引っ掛けちゃうんだなあって。きっと君は文乃ちゃんに出会わなかった方が良かったと思うけど、文乃ちゃんが君に出会えて本当に良かったと思うよ、私」
「んにゃ照れるねえ。もっと褒めてもいいよ」
「じゃあ一ついいニュースだ。あのね──」
*
「断固抗議する! 僕はそんな不平等を認めない!」
僕は理事長の部屋に殴りこむことにした。つーか今凸ってる。
「何かね。不平等などこの学園には存在しないが」
「とぼけないでください! 保健室の件、僕は知っているんですよッ!」
「はて、なんのことやら」
このクソジジイ! 脱毛剤ぶっかけるぞハゲ!
僕は理事長の高そうな机をぶっ叩いた。いい音が鳴った。
「なんで他の人は保健室で治療受けても無料なのに、僕みたいなパンピーだとぼったくり価格になるんですか! 説明しろやハゲ!」
「誰がハゲか。ふっさふさじゃボケ」
黒澤に聞いた話だ。一度一般生徒(エリート金持ち)が校舎で大怪我を負って、保健室に運び込まれたらしい。しかしその時は当たり前のように保健室のゴミ教諭は治療魔術を発動し、治した。当然金銭の要求はなし。
「うるせーハゲ! てめえ実質ハゲみたいなもんだろハゲ!」
「誰が実質ハゲじゃ。退学処分にするぞ豆つぶが。というか自分で言っておるではないか。パンピーだからじゃよ」
「おん!? んだとぉ!?」
ハゲの話によるとこうだ。
そもそも──魔術とは金持ちの使うものだ。魔術黎明期からその技術を発展させたのは資産家や大企業の上部、政治家。それらトップの人間達で、常に魔術とは門外不出のものとしていたのだ。
なぜなのか。
貴重だからだ。貴重で、あまりに強力無比にして万能、汎用性も高い。
もしもこれが外に流れ出れば、革命が起きる。
世界の常識が全て引っくり返る。生活、道具、経済、果ては戦争。産業革命の時のように、いやしかしそれとは全く比較にならない程の変化。
世界が変わるのだ。文字通り、地球の形が変わるかもしれない。それほどの。
「うっせーなんな能書きはどうでもいいんだよハゲ!」
「急くな小僧。これ世界観説明も兼ねておるんじゃから」
最初に魔術が発見されたのは、皮肉にもとある科学研究所だった。その事実は瞬く間に隠蔽され、ただ人の上に立つものだけがそれを手にした。
それは発展され、広がり、洗練され、ようやく一つの体系を作り出した。それが魔術。
ただ隠され、ある時は使われ、それは多大な利益をもたらした。ただ人の上に立つ人間のみに。
あーもうめんどいから端折る。
つまり偉い人たちが魔術を独占してきて、偉い人ばっかり魔術が上手になっていった。
んで、ようやく魔術が一般公開された現代になってもその流れがあって、企業のエリート御曹司令嬢ばっかりが魔術上手ですごい強い。なんかもう遺伝子的に魔術つよつよってことらしい。
で、ここからが問題だ。
「こいつはおめぇのようなクソガキ庶民人間のためなんじゃよ。下々の者は生まれつき魔術適性が低い上、戦闘経験もあまり無い。簡単に言えば死にやすいんじゃよ」
「誰が庶民クソガキ人間だハゲ散らかしやがって。ならなおさら保健室は無料でいいじゃねえかよ。つか払ってる学費は一緒だろ! 最低限金の分は平等にしやがれ根毛じじい」
「はん。死にやすいからじゃよ。保健室がそう簡単に使えないと分かれば、貴様のようなクソガキは荒事から遠ざかるじゃろ? つまり安全っちゅーわけじゃ」
「学費は平等だろうが!」
「そんな訳がなかろう。おのれの様な世間知らずのクソガキには分からんだろうがな。寄付金の一つも寄越してから言うんじゃな、そういうセリフはのう」
「ハゲ……!」
「貴様の学費なんぞ一度の寄付金の何百分の一じゃ。まあ豆粒のようなもんじゃのう。分かったら帰れ。出口はそっちじゃあ」
「ハゲ………ッ! こっちはそんなもん言ってらんねえんだよ! 毎度毎度女の子に腹パンされて死にかけてんだぞ!」
「男として本望じゃろう。贅沢言うな。それに生きておると言うことは術者に伝手があるのじゃろうな。問題なくね?」
「…………ちィッ! クソジジイ、ここでこのクソガキに誠実な対応をしておかなかったことを確実に後悔するぜ」
僕はそう吐き捨ててドアを乱暴に閉めて理事長室を後にした。
「ほん、クソガキがほざくのう。死んでからじゃ遅いんじゃぞ」
ケッ。後ろから聞こえてきた声はガン無視した。
また髪の話してる……(‘・ω・`)




