1 はじまりはじまり
ギャグにしたいです。よろしくお願いします。
「君のことが好きだ。僕と付き合ってほしい」
「え、やだ」
以上のようにして一つの恋は終わりを告げた。
うわあああああああああああああああああああああああああああ!!
*
その学校は全国に数多いいわゆる魔術学校というやつだ。受験当時頭のおかしくなっていた僕はなにをトチ狂ったか「国立」魔術学校を受験、合格する。いやぜってー受かんねーってやめとけ、受験料のムダだってと引き止める家族友人先生を振り切って受験。なぜだかわからないが──いやまったくもって、受験した僕でさえ疑問なのだが、合格してしまった。
これだけを聞けば僕は超エリートの御曹司か、はたまた親が権力者で、裏側から手を回して入学させたかなどの想像がつくが、そんなことはない。僕は平凡な家に生まれ、平凡な土地に育ち、平凡な暮らしをしていた。学業平均、運動能力は平均より少し上、対人能力普通。これといったアレルギーはない。健康体である。人と揉め事を起こしたことはない。
高校入学後、このまま年齢イコール彼氏いない歴のまま死んでたまるかと決意した僕はクラスで仲良くなった女の子に告白、玉砕。入学二ヶ月経つか経たないかの頃であった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「なんですか陰気臭い。やめてくださいます?」
「勘弁してくれよ……。今の僕は傷心なんだよ……」
「傷心? は、くだらない。なに一丁前に人間のようなことをほざくのですか」
「ちょっとやめてくれ。せめて人間扱いはしようぜ頼む」
天王寺は今日も容赦がない。こいつが最も生き生きする瞬間は人を──主に僕を罵倒するときだ。悲しいね。主に僕が。
「人間? なにを勘違いしているのです? あなたこの学級を見回してまだ自分はきちんとした人間だと言い張れるのですか?」
「待ってくれ天王寺。いいか、この学級が優秀すぎるだけであって僕は世の中水準でみれば十分に平均値を取っている。というかこのクラスに限ってなんでこんな天才ばっかりなんだよおかしいって絶対」
「おかしくないですわ。むしろおかしいのはあなたでしてよ?」
「はあぁぁぁぁぁ……。そうだよなぁ…………。僕だもんなぁ…………」
「だから辛気臭いと言っているでしょう。あなたの耳は飾りですの?」
「僕さぁ。鷹宮に告ったんだ」
「…………は?」
「だから告白したの。鷹宮に。付き合ってくれって。それでフラれた」
「え、告ったって、その、あの」
「僕だもんなぁ。知ってたようん分かってたし。どうせ一般的な告白成功確率の平均値をとっただけさ、いつものだ」
「え、え、え、あ、あああぁぁ……!」
「えちょっと待って? 天王寺? 何ちょっと落ち着いて? ねえ待ってその拳は何? ちょっとやめてがぁ──は、ぐふぅっ──」
死ぬほどボコボコにされた。あんなボコボコにする? 普通。あんな無慈悲に人を殴り蹴る? そんなことってある?
「はー……。いってぇ……痛えよぉ……。なんで? なんで告ってフラれただけで僕はこんな半殺し状態にされなきゃいけないの? 社会皆泣きっ面に蜂なの? 」
「いやー、あれは半分くらいは君が悪いねえ」
「えマジ? 僕悪いかなあ。だって僕天王寺になんかした? そんな鈍感系ラノベ主人公みたいなことある?」
「いやでも保健室送りにしたのはやりすぎだろうけど。しかし一発殴るくらいの権利はあると思う」
「嘘だあ。そんなことってある? 何がそうなってそうなるん? そうはならんやろ」
「なっとるやん」
ノリよく関西っぽい語尾で返してくれてちょっぴり嬉しい。
「じゃあここで文乃ちゃんが君のこと大好きって仮定してみよう。そしたら辻褄があうね?」
「いやぁそうはならんやろ。そりゃ天王寺は友達だよ? 向こうも最低限友達とは思ってくれてるとは思うよ。自惚れかもしれないけど。でもあの天王寺だよ?」
「いや、あの天王寺文乃ちゃんが毎日毎日君と関わりたくて必死なんだよ。もう明らかじゃん。明らかに気あるでしょ。どこからどう見たって」
「いやいやいやいやいや、僕と関わりたくて必死? あの天王寺グループの令嬢、あんな典型的なお嬢様キャラが? ありえないなんてもんじゃないよ。そんなことある?」
「だからなってるんだって。いや文乃ちゃん君のこと大好きだからね。もう死ぬほど好き好きオーラ出してるからね。もうヤバいからね。見てるこっちまでドキドキするくらい凄いからねいろいろ」
本当か? いや無いやろ。マジで無いやろ。いやまあ、確かに毎日毎日話しかけてくるよなあとは思っていたよ。思っていたけどさ。 そこはほらお嬢様的ななにかがあるのかなって思ってたわ。僕ってクラスでトップクラスに凡人だし、プライド的なものがあると思ってた。
あかんにやける。思わずにやける。ぶっちゃけるまでもないが、天王寺はめちゃくちゃ可愛い。いや流石に縦ロールではないが、なんというかお嬢様って感じ。
いや他人からの情報だからあまり信用できるものでもないが、でもなんだろ、女友だちからの情報って意味もなく信用できない? いや僕は信用する。少なくとも適当な男友達よりはよっぽどいい。
「でもどうして文乃ちゃんあんな凄い顔してたんだろ」
「んー……。関係あるかどうか分かんねえけど、天王寺に僕が鷹宮が告白してフラれたことを話したんだ」
「情報量が多すぎる! それだそれだよ! かんっぺきにそれだああああああああ! え!? っていうか何!? 告ったの!? 鷹宮さんに!? 本当に!? ってかフラれたの? ってまあそりゃそうかフラれるよねそりゃ」
「まって後半冷静になって残酷なこと言うのやめて。辛いから。結構心に刺さるからそれ」
「はー……。まさか三島がねえ。思い切ったことするねえ、イケると思ったのそれ」
「いやあ、半々くらいかなーって」
「半分もないよ成功確率。よくそんな甘い見積もりでイケると思ったね三島ぁ。文乃ちゃんだったら間違いなくオッケー貰えてたのにねえ。大体なんで鷹宮さんなの? 身の程知らずにも程があるでしょそれは」
まあ正直それは分かっていた。
鷹宮という少女は実際、僕と天秤に掛けてみれば一瞬でわかることだが、オーバースペックな人間だ。なんというべきか、神様に愛された少女なのだ。
人間離れした魔術適正は勿論のこと、人とは思えないほどの才能、勉学や運動、戦闘能力、果てはその容姿に至るまで全てが──完璧。
パーペキ人間鷹宮。それが僕が告白してフラれた人。
はっきり言って釣り合わない。というかあんな人に釣り合う人いるの?
「でも好きだったんだよ。いやこれは本当に。マジで惚れてた。もうガチ恋だね、ガチ恋。マジで恋する5秒前くらいだった。ていうかしてた、恋。終わったけど」
「あっそう。まあそろそろ血まみれの三島を見るのにも飽きたし治してあげるよ。ほれくるくるりーっとな」
魔術が染み渡って体の痛みが引いていく。僕はやっとベッドから起き上がって伸びをした。
「ふぁー助かったぜ。ありがとね黒澤。お陰で死の淵から帰ってこれた。もう一生ベッドの上から動けねえかと思ったよ」
「君はもしかしたら一生ベッドの上にいた方がいいかもね」
「え何で!?」
「君は気づいていないかもしれないけど、君はなぜだか女の子を引っ掛ける才能に溢れてるからね。その毒牙にかかる人はすくないほうがいいし」
「うっそだあまたまたお上手なんだから〜。僕にそんな才能あるわけ無いじゃん? 大体僕は生まれてこのかた女子にモテた事とか一回もないよ。ましてや告白されたことなんて一度もない。いや告白したことは割と何回もあるけど。まあ全部フラれたけど」
「とりあえず文乃ちゃんに告白して来たら? 多分幸せになれるよ」
「マジで? でも告った直後にまた別の人に告るのってもう完全にダメな男じゃない? 大丈夫?」
「いやとりあえずやってみよ? とりあえずやってみて、ダメだったら私に報告ね。まあ断られることはまずないけど」
やってみることにした。
「天王寺、お前のことが好きだ。付き合ってくれ」
「……へ? そ、その、もう一度言っていただけるかしら」
「好きだ。付き合ってくれ」
天王寺は全力で顔を隠しながらマシンガンのように言葉をつなげた。
「い、いえその、急にそんなこと言われましても私の心の準備が、というかあなたは鷹宮さんに告白したばかりではないのですか、いえようやく私の魅力に気づいたのですね、本当に遅すぎますし、いえべつに私はあなたのことなど路傍の石程度にしか思っていないのですが、ですがあなたがどうしようもないほど私のことが好きで好きで死んでしまいそうというのならばべつに、私も最低限度の持たざる凡人凡才への慈悲として付き合ってあげても、まあ、考える程度のことはして差し上げてもよろしいというか、しかし鷹宮さんにその、告白したというのに私にすぐす、好きなどと、言うような輩とはその、例え付き合ったとしてもすぐ浮気される危険もありますし、しかし、しかしあなたがどうしても、なにがあったとしても、たとえ全てを失ったとしてもこの天王寺文乃と付き合いたい、結婚して一生を共にしたいなどという身不相応な思いを抱いていて、その思いを抑えきれずについ告白してしまったというのならまあその、私もやぶさかではないというか、いえ決して勘違いして欲しく無いのは私はあなたのことなど全く、これっぽっちも、砂漠の砂つぶ一つほども好きではなく、ましてや愛しているだのずっと一緒に居たいなどとは決して思っていないという事実でして──」
やべーなこいつ。こんなこと言う? ここまで言うか? つかやぶさかじゃ無いのかよ。つかその割には全否定かい。黒澤の目は節穴だったのか。
「だ、だからってべつにダメと言っている訳ではなくて、えっと、その──」
「天王寺」
「はいっ!」
「もう一度言うが好きだ。付き合ってくれ」
「え、あ、う、うぅ……。ひ、ひとつだけ聞かせてください……。なぜ鷹宮さんに告白してすぐ、私にも告白したのですかっ。あ、あなたはそんなだらしない人なのですかっ!」
「いや黒澤が天王寺ならイケるって言ってたから」
「死になさい外道がっ!」
「ぐはぁッ!」
右ストレート。僕は屋上の壁まで吹き飛ばされて激突。やっべ息できねえ。
「クズ、ゴミ、女の敵! バカバカバカバカ! 死になさいゴミクズ! や、やっと告白してきてくれたと思ったのに……っ! 女なら誰でもいいのですかっ!」
一撃では足りないとばかりに崩れ落ちた僕に加えられる暴行。僕のHPはとっくにマイナスを振り切っている。
だんだんと弱くなってくる拳を僕は精一杯の力を込めて、しかし弱々しく握って微笑んだ。
「……大丈夫、僕は暴力系ヒロインでも、オッケー、だ、よ……」
「はあっ!」
僕の意識はそこで途切れた。
評価感想よろしくお願いしたいですね。マジで。