第26話 スラムの姫
グルベイズ冒険者ギルド、ギルドマスターであるザガンから直接依頼を受けた。
その内容は、スラムの長ガイエルに会い依頼を受けるというものだった。
というわけで、現在そのガイエルの屋敷に入り髭面の男と対面しているわけだ。
「あんたが、ガイエルか?」
俺は、先ほど案内をした男の忠告を無視して呼び捨てた。
「くっ、くっ、くっ、なるほどな。確かに、ザガンが言っていた通り、いい度胸だ。この場で俺を呼び捨てるなんてな」
ガイエルがそういった瞬間、俺の周囲にいた気配が一斉に動き出そうとしていた。
「やめておけ、貴様等じゃ、束になってもかなう相手じゃねぇよ」
ガイエルがそういったことで、その気配はおとなしくなった。
どうやら、ガイエルがここを牛耳っているという話は本当らしい。
「それで、俺に依頼って、なんだ?」
俺は、さっそく本題に入ることにした。
「おう、そうだったな、ついてこい」
そういって、ガイエルはすぐ近くの扉に手をかけて入っていったので、俺もそれに続いて、階段を上がりその扉の中に入った。
ガイエルが入った部屋に入るとそこはこの屋敷の主が執務をしていた場所だろうか、大きな机が備えていあった。といっても、現在そこはガイエルの椅子と化しているようでそこにドカッと座り込んでいた。
「座れ」
俺が入るなりガイエルはそういってきたので、俺も適当にボロそうでありながらなぜかきれいに見えるソファーに座った。
「お前への依頼だが、俺の娘を救出してもらいたい」
サニマから娘がいるという話は聞いていた。おそらくこの妙にきれいなソファーもその娘が掃除などをしていたのだろう。しかし、先ほどから姿を見ないと思っていたら、どうも、娘、マルティナはどこかにつかまっているようだった。
「救出? それは、俺じゃなくて、あんたらじゃできないのか?」
当然の疑問だ、このガイエルはもちろんこの部屋の周囲にいる連中もレーヴェによるとそれなりのスキルレベルに到達しているようだからだ、それなのに俺をわざわざ呼ぶっていうのはどういうことだろう。
「俺たちもすでに数人精鋭を送っている。だが、誰も戻っていない。この意味は分かるな」
ガイエルがそういった。多分その精鋭たちは殺されているんだろう。
「それに、連中には1つ噂がある……」
ノーランがスラムに足を踏みいれる前日のことだった。
はぁ、まさか捕まるなんて、思わなかったよぉ。もしこのことをサニマ姉さんが知ったら……。
いやいや、さすがに父さんもザガンおじさんも知っているから大丈夫だよね。
なんて、ちょっと現実逃避気味にサニマ姉さんの怖さで紛らわそうとしたけど……無理。
なんで、なんで、こんなところに悪魔族がいるのよぉ。
そんな魂からの叫びをあげているあたしはマルティナ、ここグルベイズでは、なく子も黙るスラムの長ガイエルの1人娘。
そんな私がなぜ、こんなところで捕まっているかというと、ひとえにちょっとしたミスだった。
あれは、父さんに頼まれてザガンおじさんのところに行くところだった。スラムの最奥に住むあたしは近道をしようといつもはあまり通らない路地を通ろうとした。
その時だった、突如黒ずくめの集団に囲まれた。
「えっ、な、なに……」
あたしがそこまで言ったところで、突然気を失ってしまった。
そして、気が付いたらこの牢屋の中にとらわれていた。
そこには、これまで突然行方不明になっていた、スラムの住人たちが数名あたしを囲っていた。
「お嬢! けがはねぇか」
「お嬢! 無事か?」
「みんな、みんなこそ、大丈夫?」
実は、あたしがザガンおじさん所に行く用事は、この行方不明となった人たちを探すのを冒険者に手伝ってもらうためだった。もちろん普段はこんな依頼を出すことはない、スラムにも冒険者に負けないぐらいの力を持った人たちが大勢いる。しかし、いくらたっても見つけることはおろかその手掛かりすらつかめなかった。
いや、見当はつけていた最近スラムに入ってきたあたしをさらった黒ずくめの連中だ。彼らはディノシス教団と名乗りスラムの一角に住み着いた。
スラムというのは元々町などからあぶれた人たちが勝手に住み着いた場所、だから誰がどのように住んだところで誰も気にしない。
だからこそ、あたしたちも最初は怪しい人たちだな、ぐらいにしか思っていなかった。
そんな矢先、まさかあたしが自らこうして捕まることになるとは思わなかった。
それから、あたしたちはこの牢屋からいかに脱出するかや、父さんたちにどうやって知らせるかなどを話し合った。それでも、なかなかいいアイデアが浮かばなかった。
そんな中、あたしが目覚めてからしばらくたったところで、1人牢屋から出された。
「おい、お前、出ろ」
もちろん彼は抵抗した。でも、相手は複数こちらは縛られていたために抵抗むなしく牢屋から出され、あたしたちにも辛うじて見える位置に縛りはりつけにされた。
そして……彼の前に立った1人の男が何かをした。
「うぎゃぁあぁぁぁぁ」
叫び声とともに真っ赤な何かをまき散らし、その後彼は動かなかくなった。
あたしは意味が分からずあたりを見渡した。すると、あたしの周囲にいた人たちはみんな顔を真っ青にしていた。それだけで、あたしにもわかった、今、ついさっきまであたしをお嬢って呼んで、気を使ってくれていた。名前も知らない彼が、たった今、あの男に殺されたのだということを……。
「う、うそ、でしょ」
あたしは思わずそうつぶやいていた。
信じられない、どうして、あんなひどいことを……。
そりゃぁ、あたしたちだって、スラムを裏切ったり、敵対した人たちには容赦せずに殺すことはある。あたしだって、その現場は何度も見てきた。こういうのも見慣れていると思っていた。
でも、今のは、ひどすぎる。いくらあたしたちでもあんな無残なことはしない。
「どうして……」
あたしは恐怖に震えた。
それと同時、あたしは見てしまった。それは、あの彼に何かした、あの男の正体を、そう、あたしたち人類の敵であり、神々の敵邪神が生み出した存在、悪魔族だった。
そんな恐怖におびえつつ数日が立とうとしていた。
あたしの前につかまっていた人は、次々に同じように殺され、あたしの後につかまった人たちは、あたしが選ばれそうになると、みんな、自分を先にしてくれと懇願。
そして、その人はあたしの代わりに選ばれ殺された。
こうして、どんどん、どんどん、あたしの目の前で、多くの人の命が無残に奪われ、ついに先ほどあたしだけとなってしまった。
もうあたしをかばう人はいない、今度こそあたしの番。
死にたくない、誰か、助けて、サリム姉さん、父さん、ザガンおじさん、誰でもいいから助けて。




