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スワロウ   作者: 軽井沢タカユキ
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スワロウ 1

小説家をめざす汚い男の処女作。ゆえ誤字,脱字に関する指摘,内容の感想等,バンバンござれ

あの時はたしか夕立がふっていたと思う。6時限目の体育に行く気が起きなくて保健室に行くと教師につげ屋上に出たのだ。他の人からみたらサボり魔,病弱といった属性を私に与え,さげすむかもしれないが,私にとってみたら死活問題だったのだ。その頃の私はひたすら疲れ切っていた,代わり映えのしない勉強に,交友関係に,学歴至上主義の親からのプレッシャーに。永遠とも思えるルーティーンに終止符をうって自由になりたい,しがらみのない世界に自分を解き放ちたい。そんな気持ちが私を支配していた。自由,フリー,リベルテ,そんな響きの言葉がオアシスにも思えた。そして私はそれらを手にするため,噛みしめるために屋上のさびたドアノブを回したのだ。ひんやりとした鉄が私の体温を奪い,それと引き替えに私はわずかな憩いを手にいれる,なんてお得な取引だろう。傘は登校時に持参したが傘立ての中まで取りに行くのがおっくうだったのでそのまま足を踏み出し上履きを水たまりに浸した。冷たい。ジメジメとした空気の中,雨垂れが髪の毛を,制服を,そして皮膚を穿つ。その感触に私は恍惚とし,一歩も動くことができずしばらくたたずんでいた。一滴それを口に含み味わい飲み込むことで自由を噛みしめもした。それはどんなミネラルウォーターよりも美味な青春の味だった。味わうのもつかの間フェンスのあたりまで駆け出し,風景を一望する,が所詮進学校の廻りなどみても,灰色の建物が均一に並ぶばかりでおもしろみもなんともない,ふと鳥肌が走る,建物一つ一つが鉄格子であるように感じたからだ。私はこの檻から一生逃げることができない― 恐怖が身を襲い吐き気が私の三半規管を狂わせる。いやだ,声が出ていた。助けて,涙も出ていた。許して,嗚咽が漏れる。生かして,声にならない。その時だった。「君の望みを叶えてあげよう。」フェンスから身を離し,周囲を見渡す,誰もいない。「ここだよ。」声の方向,右耳,つまり右手に目をやる,誰もいない― 一匹の燕を除いて,「だからその燕だって。」狐,いや燕に包まれた,そんな気分だった。

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