ゆりんぐ・うみがや・ふぇすてぃばる
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おはようございます。私立星花女子学園高等部三年の木隠墨子です。
今日は、恋人の倉田楓……楓ちゃんと二人で……その……で、デートに来ています……!
……というのも。
『まあ、たまにはさ、二人で行ってみたらどうだ?』
……と、同級生の巣原椎名さんに今日わたし達が来ているスイーツフェスティバルのチラシと交通費をもらってしまったので。
「……現金なんて、もらってもいいのかな……?」
「……どうしたの、墨子」
「う、ううん。なんでもないよ、楓ちゃん」
「……そう」
今回来ている、この「うみがやスイーツフェスティバル」というのは、わたし達の地元「空の宮市」の東に位置する「海谷市」で行われている、日本全国各地のスイーツが集められたお祭り。開催されること自体は知っていましたが、楓ちゃんがあまり興味が無かったみたいで、行く予定ではありませんでした。
「甘い香りがするね、楓ちゃん」
「……うん」
いつもと同じように、無愛想な返事。でも、そんなところも楓ちゃんの魅力です。
◆
「…………」
会場内の食事スペース。そのテーブルにクレープやパフェやスイートポテトを広げている光景に驚いていると、もぐもぐと口を動かしている楓ちゃんに声をかけられました。
「……墨子、食べないの」
「えっ!? ううん、そうじゃないんだけど……。……楓ちゃん、よく食べるなぁって……」
「……ごめん」
「ち、違うの! ただ、楓ちゃんがこんなにテンポ良く食べているところ見たことなくって」
「……わたし、甘いもの好きだから」
知りませんでした。
二年以上一緒に住んでいましたが、わたしは、好きな女の子の好物も知らなかったんですね……。
「……教えてくれたら、よかったのに」
「……元々は、好きじゃなかったから」
それは、どういうことでしょう。
「……今はどうか知らないけど、お姉ちゃん、甘いものが苦手だったの。だから、甘いものねだって、嫌な気分にさせようって」
「……」
約一年前まで、険悪な関係だった楓ちゃんと倉田先生。それまでの倉田先生は、いったいどんな気持ちで楓ちゃんに甘いものを買っていたのでしょうか。
わたしに、それを知る術はありません。
「……でも」
「……?」
「……食べているうちに、普通に好きな食べ物になっていたの。……お姉ちゃんへの気持ちとは、関係なく。……だから、誕生日に墨子が作ってくれるケーキは……美味しくて、好き」
「楓ちゃん…………!」
「…………。…………っ」
恥ずかしかったのか、楓ちゃんは慌ててわたしが作って持ってきたハーブティーを飲み始めました。
「っ! あつっ」
「あーごめんね支えてなくて! 今、拭いてあげるからっ!」
これからは、お菓子作りも勉強しようと思います。
こんな日常が、続いてくれる限り。