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第16話 恋の話

 文化祭の準備二日目、俺は昨日と同様に段ボールを切っては貼り付けるという作業を繰り返していた。高砂は部活があるので今日も不参加だ。黄瀬は松来を含む何人かの女子と一緒に、買い出しに行っている。


 一人で作業をしていたら、同じ大道具係の男子三人に黒石もこっちで一緒にやろうと声をかけられたので、立ち上がり三人の作業スペースに移動した。俺は黙々と作業し、三人は作業をそっちのけで何やら盛り上がっている。


「黒石はどうなの?」


 急に話題を振られ、話を聞いていなくてなんのことかさっぱりな俺は何が、と聞き返した。


「クラスの女子のことだよ」

「好きなやつとかいねぇの?」


 なるほど恋の話、恋バナか。この手の話題はあまり得意ではないので、いないけど彼女は欲しいと無難な答えを返す。


「だよなー。俺も彼女欲しい」

「黄瀬とかいいよな。優しいし可愛いし」

「わかる。そういえば黒石って確か、黄瀬と仲良いよな? なんで?」

「あー……クラス委員長だからその流れでたまに話すけど、別に仲良くはないよ」


 聞かれるかな? と思っていた質問をされたので用意してあった答えを言う。事実、俺が勝手に親近感を抱いているだけで仲が良いわけではないからな。


「そうかー? あ、でも松来もよくね?」

「スタイルいいよな」

「でも渡辺とできてんだろ?」

「え、お前知らないの? 渡辺はあれだよ。この前緑青藍に告白して振られたらしいぜ」


 緑青の名前が出てきて、すこし動揺したのか、ガムテープを出しすぎてしまった。長すぎるガムテープをハサミで半分に切り、段ボールに貼り付ける。


「うわーまじ? でも緑青かー、あれは流石に無理だろ」

「だよな。去年のミスタコンの先輩も振られたって聞いたし」

「あとテニス部のキャプテンとバスケ部の……名前なんだっけ?」

「俺も名前知らないけど、スタメンでスリーポイントばんばん決める人だろ?」

「そう! その人もダメだったらしい」


 渡辺が緑青に気があることは知っていたが、まさかもう振られていたとは知らなかった。それにミスタコンの先輩にテニス部のキャプテンとバスケ部のスタメン、校内で有名かつイケメンな男子に告白されていたとは。流石学校一の美少女だな。


「まぁそんな話は置いといて、俺にも文化祭までに彼女できるかもじゃん? 一緒に回りてぇ」

「えーお前まさか黄瀬に告る気かよ。やめとけやめとけ」

「うっせ!」


 三人のやりとりに耳を傾けつつ、俺は段ボールをカッターで裁断した。



・・・・・・・・・



 買い出しに行っていた黄瀬たちが帰ってきてしばらくして、今日の活動はお開きになった。


 緑青は今日は来ない、だから俺もまっすぐ家に帰ることにした。家について、鞄の中のクリアファイルから宿題のプリントを取り出そうとしたのだが、見つからない。どうやらプリントを机の中に忘れて来てしまったらしい。

 取りに帰るか、明日の朝早く学校に行ってプリントの問題を解くか、俺は前者を選択した。難しい応用問題は参考書を見ながらやらなければ解けない。わざわざ学校に重い参考書を持って行く気にはなれなかったし、朝早く起きるのも怠かったからだ。


 じりじりと太陽に焼かれながら俺は学校に再びたどり着いた。さっさとプリントを持って帰ろうと思い、教室に入ろうとした時。


「ねー菜乃花、渡辺のことどう思う?」


 誰もいないと思っていた教室から松来の声が聞こえて、咄嗟に俺は隠れた。ドアの横の壁に背中を合わせて、息をひそめる。


「え? 実行委員としてすごく頑張ってくれてるよ」

「そうじゃなくて、その……最近なんか元気なくない?」

「え、そうかな?」

「そうなんだって! なんかあったのかな」

「うーん、私には普通に見えるけど。でも有里華が言うんだからそうなんだろうね」

「うん……。なんか聞きにくいんだよね。こんなんで告白とかできんのかなぁ私」


 黄瀬と松来が会話をしている。これ、俺が出て行っていいのか? いや駄目だろ! 話の内容からして恋バナだし、俺に聞かれちゃまずい内容なんじゃないだろうか。俺はゆっくりと抜き足差し足忍び足でその場から離れようとした。が、偶然いや運命の悪戯なのか俺のスマートフォンが音楽を奏でた。


「えっ誰かいんの?!」


 まずい。家に着いた時にスマートフォンのマナーモードを解除してしまったのだ。なんという失態。俺は隣のクラスに駆け込んで身を潜めようとしたが、鍵がかかっていて開かなかった。万事休す。


「く、黒石くん?」

「……最悪」


 黄瀬の少し驚いたような声と松来の吐き捨てるような声が後ろからして、自分のタイミングの悪さを呪った。


「……何も聞いてないから」

「嘘」


 安心してくれ、と言う前に松来のいつもよりずっと低い、ドスのきいた声で否定される。


「誰かに言ったら承知しないから」


 俺はこくこくと頭を上下に振った。黄瀬は心配そうに俺を見つめている。松来は俺が頷いたので安心したのか、菜乃花帰ろ、と言って俺を解放した。


 一人残された俺は目的であった机の中のプリントをファイルに入れて無事ではないが、家に帰った。


 その日の夜、松来に目をつけられていませんように、と静かに祈りながら俺は眠りついた。

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