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チート転生、したはずだけど

「俺神間違殺詫転生」

「寄越チート」

「おk」



 生まれ落ちた瞬間から、確かに自分の意識はあった。そして、前世の記憶を持っている事も。

 しかし、脳も、身体も未熟な状態ではソレを保っていることが出来ず、始めの頃はほとんど自覚できていなかった。

 魔法が存在し、魔物が跋扈するファンタジーな世界。そんな世界のとある王国の、弱小男爵の三男として俺は転生した。

 大きな責任はないが、期待もされない。そして、権力も、金も大したものはないこの家において、俺は全く目をかけられていなかった。

 虐待されていたわけではない。必要な教育も与えられていた。しかし、家族や周りが俺を見る目は冷ややかで、居ても居なくてもいいような、そんな立場だった。

 ならどうして、産んだんだ。そんな事を思わず考えてしまうが、それも詮なきことだろうか。転生の明確な自覚がなくても子供なりに自分へ向けられている感情は理解できていたし、俺自信、どこか冷ややかに自分を見ていたと思う。

 騎士団に入り、その下っ端になるだろうつまらない、しかし下級貴族の三男にお決まりの人生。そこに何の希望も俺は見出していなかった。


 だからこそ、5歳の頃、明確に前世と神と名乗る存在とのやり取りを思い出した俺は、年甲斐もなく(としそうおうに)はしゃいでいた。

 意識するとその能力に気がつく。この世界の者が生まれた時に得られる特殊能力。神の贈り物(ブレス)

 効果の強弱はあれど、この世界の人間はみなそれを持っていた。もっとも、それが何かが判明するのは10歳になり、神殿で祝福を受ける時なのだが。

 俺はこの特殊な生い立ちから、それが何かを予め理解できたというわけだ。

 そして、俺が神から与えられた贈り物(ブレス)。その名前は「世界制御(コンソール)」と言った。世界制御、まさに望んだチートにふさわしい名前だ。

 これで家族に一目置かれるだろう。これで、俺を見下してきた他家の子息たちを見返すことができるだろう。

 期待と、夢に胸を膨らませ、俺はその贈り物(ブレス)を使用した。


世界制御(コンソール)!」


 効果が発生した手応えは、確かにあった。何かが起動したことは、わかる。しかしそれが何で、どんなことが起こったのか、俺には一切理解が出来なかった。


世界制御(コンソール)! 世界制御(コンソール)!!」


 発動はしている。だが、何も起こらない。身体能力が上がった気配はない。強力な魔法が発動する予兆もない。ウインドウが表示されて、何かの説明が入ることもない。

 開かれた未来が、真っ暗になる。

 どうして、なぜだ。贈り物(ブレス)は確かに存在している。あれは夢ではない。ならば、謀られたのか。浮かれる俺をあざ笑うために、こんな意味の分からないスキルを与えたのか。

 諦めきれない俺は、様々なタイミング、思考で贈り物(ブレス)を使用した。だが、駄目だ。何も起こらない。理解できない。使い方が全くわからない!

 そして俺は気がついた。たった一つ、神から与えられる贈り物(ブレス)。それが、こんな役に立たないもので消費されていた事に。

 平民ですら、なにかしら贈り物(ブレス)の恩恵はある。炎の魔法をちょっとだけ使えやすくなるとか、動物が少しだけ言うことを聞きやすくなるとか、そんな他愛もない、でも少なからず役に立つ贈り物(ブレス)。

 俺にはそれすら無いのだと。

 見返すどころの話ではないのだと。



 5年後、俺は予想通り嘲笑の渦に包まれた。



 意識が覚醒する。どこか薄ぼんやりとした思考が、ここがどこかを考える。


「おじいちゃん、おはよう」


 ホッとした顔でベッドで寝ていた俺を覗きこむのは、金髪の美しい女性。目元など、あいつによく似ている。

 ああ、そうだ。3年ほど前に先立たれた、最愛の妻とよく似ている。彼女は、俺の孫娘だ。どうやら、何十年も昔の夢を見ていたらしい。

 浮かれて、落とされて、見下されていた頃の夢を。

 俺は結局、贈り物(ブレス)の使用方法を理解することが出来なかった。もはや家に居ることすら苦痛になった俺は、屋敷を飛び出し冒険者となった。

 温い世界で育てられた俺に、その世界は厳しかった。何度も死にかけた。信用していた人間に裏切られることもあった。

 だが俺はそれでも、がむしゃらに仕事をこなした。事質贈り物(ブレス)を持たない俺は、人の何倍も努力しなければ、追いつく事すら出来なかった。

 家族への反抗心か、神への怒りか。自分でももはやその原動力がわからないが、俺はただひたすら、冒険者として邁進し続けた。


 その結果として、中級上位と言う、有象無象の冒険者としてはそれなりに高い実力を得ることが出来た。

 その結果として、心の底から信用できる仲間を得る事ができた。

 その結果として……愛する妻を娶り、子供も、孫も……大事な俺の家族を得ることが出来た。


 身体の酷使による多少の不自由は残ったが、五体満足で冒険者を引退することも出来た。

 寄る年波には勝てず、殆ど寝たきりになってしまっているのだが娘夫婦や孫娘が甲斐甲斐しく世話をしてくれている。

 とは言え、そろそろ潮時だろう。あまり、娘や孫娘達に迷惑を掛けたくはない。いい加減、お迎えが来てもいい頃合いだ。

 神が与えてくれたチートが一体何だったのか、最後までわからなかった。しかし、この2回めの人生は結果としてはとても満足のいく物だった。

 孫娘が何か言っているが、再び強い眠気が襲ってきていた。次に目覚められるかは分からないが、俺はその眠気に、身を委ねた。

 最後に、どこか遠くで、覚えのある声を聞きながら……。


『あ、メンゴメンゴ。チートコマンドの説明忘れてたわw コンソール開いて、コマンド入力しないといけなかったんだよあれwww』


「ふっざけんなああああああああああああ!!!!」


 覚えのある軽いしゃべりに、一発で目が覚めて飛び起きる。ごきり、と腰が逝く。孫娘が目を丸くして硬直した。それと同時に、チートコマンドとやらの知識が脳内に流れ込んでくる。

 使用した後に何かしら呪文を唱えるたぐいのことも当然試した。だが得られた知識からそれが無駄な努力だったことを理解する。IDとか数字の羅列とかよくわからない単語とか。こんなのまぐれ当たりで到達できるわけがない。


『いやー。あんまりそっちの世界見られるわけじゃなくてさ。力を使う気配がないからどうしたのかなー、と思ってたんだよ。今ようやく、死にそうになったからあんたとのチャンネルが繋げてさw ミスに気がついたwww』


 全く悪びれない、ふざけた神の言葉が脳内に直接響く。本当に悪びれていない。

 よく考えてみると、ミスで前世の俺を殺してしまうような神だ。十全な仕事など、期待できたものではなかった。


「おま、お前なっ、もう、俺、しにっ……げふっ」

「お、おじいちゃん!?」


 俺は憤死した。

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