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凡人と馬家の二の姫

 さてはて、ある程度洛陽での用事も済み、もうすぐ南皮へ帰還することになる。

 それと共に麗羽様が正式に袁家の当主としてデビューすることになる。

 まあ、実務はずっとしてきたし特にどうということもないだろう。

 俺は俺でそろそろ家を継がないといけないのだがその前にしておきたいことが……。


「難しい顔してどしたのー?」

「いやちょっと将来のこととかを、だな」


 目の前で茶を喫しているのは蒲公英である。呑気な顔である。リラックスしすぎでしょうよ。

 色々あって、色々言ったのだが。割ときつめに言ったのだが。何だかんだで俺にくっついてくるのである。

 暇なのか、暇なのだな、きっと。


「へー、意外。そんなこと考えるんだー」

「そりゃ多少はね。

ってお前は考えたりしないのかよ」

「たんぽぽ将来のこととかよくわかんなーい。

 さっさといい男見つけないとー、とは思うんだけどねー」


 ほくそ笑みながらこちらをチラ見してくる。


「とりあえずは今日が楽しければいいかなーって」

「さよか」


 これはこれで常在戦場の心得なのかもしれない。

 根底にはいつ自分が死んでもいいように、という心構えがあるというのを俺は知っている。


「なのに叔父様ったらひどいんだよー、たんぽぽ頭よくないのにあれこれ押し付けてくるんだもん。

 人の顔とかいきなりたくさん覚えられないよー」


 ぷりぷりと全身で不本意を表現する。ころころと変わる表情は見てて飽きない。

 まあ、ここは馬騰さんをフォローしとこうか。


「んー、ある程度内向きの仕事を任せたいって思ってるんじゃね?

 きっと期待の表れじゃねえかな」

「えー、たんぽぽそういうの勘弁してほしいなー。

 あー、だからお姉さまじゃなく私を連れてきたのかー。

 てっきり匈奴への布石と思ってたのになー。洛陽を楽しみ尽くしたかったのになー」


 がくり、と項垂れる蒲公英。

 だが、納得はしているようである。なるほど。


「なんだ。意外と……きっちり馬騰さんの期待には応えるのか」

「そりゃねえ。叔父様にはお世話になってるしー。なってるもん。

 でも……やだやだー、何進さんとかと交渉とかしたくないよー」


 そりゃそうだ。俺だって御免こうむりたい。そんな気配あったら尻に帆かけてすたこらサッサである。


「ねえ、二郎様ー、たんぽぽおなか空いたなー」


 唐突だな!そして自由か!だが俺も空腹を感じている。よし、飯だな。


「んー、どうすっかな。外か内か、選ぶ権利をやろう」


 まあ、一人孤独のグルメよりは美少女と相席の方が嬉しいに決まってる。


「んー、内ってことは袁家のごはんが食べれるのかー。

 豪華な料亭もいいけど……。ここはやっぱり!

 突撃!袁家の昼ごはん!」

「へいへい」


 と言っても俺昼飯はいらないって言っちゃったからなあ。


 というわけで、俺と蒲公英の飯の用意なぞされてるわけもないので個人的なコネを使うことにする。

 向かう先は厩舎。


「あ、二郎さま!」


 烈風を熱心にブラッシングしていた流琉がこっちに駆け寄ってくる。


「おう、流琉、ご苦労な」

「いえ、皆いい子たちですから」


 天山とか流星なんかは結構気性が荒いんだが、気は心、という奴だろうか。

 俺に飛びつこうとして、泥だらけな恰好に気づいて寸前で止まってこちらを上目遣い。そんな流琉の頭をくしゃくしゃと撫でながらそんなことを思う。


「で、どうなされたんですか?」

「ん、俺と蒲公英の飯を作ってもらおうと思ってな」


 そこで蒲公英に気が付いたようで、頭を下げる。


「俺の身の回りのことをやってもらってる典韋だ、よろしくしてやってくれ」


 にこりと笑い合う少女たちの美しいことよ。いやあ、よかったよかった。


 んで、流琉に飯を作ってもらうことになったのだ。


「でも袁家ってすごいねー。さっきの馬たち、涼州でも滅多に見ることのないくらいの名馬揃いだよ」

「ふふん、あれ全部俺の馬だし」

「え!ほんとに!うわー、すごーい!」


 流石馬家の人間には馬の善し悪しが判断基準になるようである。

 しかし、そこまで馬家の人間に評価をもらえる馬を提供してくれた白蓮には感謝の一言だ。


「お待たせしましたー」


 ほかほかと湯気の漂う皿が置かれていく。

 炒飯に回鍋肉、汁物とメニュー自体はごくごくシンプルである。

 それを見て僅かに落胆した蒲公英がはむ、と。


「なにこれ美味しい!超美味しい!」

「ふ、当然だな」


 一気に箸の速度を上げた蒲公英にニヤリと笑いかけながら俺も料理を味わう。いただきます。そして。


 う、ま、い、ぞー!


 しばし無言での食事が続く。というか終わった。


「なにこれ信じられないくらい美味しかったんだけど」

「ふふふ、味っ子たる流琉にかかれば厨房のありあわせの素材でもこれくらいは当たり前……」


 クククとほくそ笑む俺に蒲公英はしばし考え込む。


「よし決めた。あの子を馬家で引き取ります」

「ん?何か言ったか?まったくもって聞こえんなあ……」


 けちー、と騒ぐ蒲公英にぴしり、とでこぴんをくれてやる。

 けらけらと笑う蒲公英。


「もーう。割と本気なのにー」

「こっちはもっと本気だぜー。そこは馬騰さんからの要請だったとしても頷けんなあ……」


 にひひ、と笑う俺なのである。

 むう、と頬を膨らます蒲公英。

 その頬をぷすりと指で突けばぷしゅ、と音がする。


「もーおー。これでも馬家の令嬢なんですけーどー」


 にひひ、と笑いながらそんなことを言ってくる。


「これは失礼したかな?

 いつかまあ、ご令嬢に相応しい宴席に招くとしようか」

「ちょっと待ってたんぽぽそういう場が苦手だから二郎様のとこに来てるんだけど」

「馬家の令嬢は謙遜が過ぎるようで……。

 なに、これで俺も武家の令息だからな。相応しい場に招いてやろうとも」


 うはははは。吐いた唾は飲めないのだぜー。


「うう、ひどいやひどいやー。これが袁家のやり方なんだね、たんぽぽ覚えた」


 この悲壮感のない台詞よ。


「まあ、いつでも歓迎するさ。気が向いたらおいでよ」


 にひひ、と笑って蒲公英が応える。


「うん、たんぽぽがやらかして、どうしようもなくなったら二郎さまのとこに行くからよろしくね!」


 なんだそれ。


「おう、困ったら俺んとこにこい。なんとかしてやるよ」


 まあ、こいつのことだから……。なんかしでかすんだろうなあ……。

 でもまあ、困ったときはお互い様、というか、なんかほっとけないのである。


 まあ、袁家放逐されたら蒲公英に養ってもらえるかなあとか考えたのは事実である。


 膝に矢を受けたとか言ったら働かずに済むだろうし。

 済むかな?

 済まんな。


 よし、袁家万歳で頑張ろう。

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