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凡人と漢朝の闇

 さて、洛陽は伏魔殿であるのは今更言及する必要もないと思う。

 漢王朝400年の澱やら怨念やらが空気にまで蔓延している気がする。十常侍やら何進やらが呼吸している空気。何ぞ毒性があっても驚きはしない。

あ、漢朝の中断期間については色々説明面倒くさいからカットね。まあ、為政者に人格とか必要ないという証左であると俺は思っているのだが。

 余談である。もしくは現実逃避である。


 そして漢朝の中枢に俺たちはいる。地理的な意味でも、権力的な意味でも。

 つまり、謁見の間であるのだ。


 既に実務の話は済んでいる。

 いや、さすがに俺の縁談云々だけで何進とのアポは難しいからね。実務的なことも盛り込んでいきました。まあ、事前に根回しは済んでいるから念押しくらいだけだったけど。


 特に波乱もなく麗羽様は三州の州牧を、美羽様は太守を任じられる。任じられた。


 そしていよいよ何皇后のお出ましである。ぞわり、と全身の毛が逆立つような感覚を受ける。

 圧倒的な存在感。見るものすべてを虜にするような視線。

 

「苦しゅうない、楽にせよ」


 かつての俺はその一言で意識を失いかけた。呑まれかけた。

 甘い毒霧のようなその存在感。力。場を汚染する桃色の霧。

 切り裂くのは金色の光明。光輝。


「ありがたき幸せですわ」


 麗羽様の一言。それだけで。


「袁家には期待しておる。

 弁をよろしく頼むぞ」

「漢朝のため、粉骨砕身、尽くす所存ですわ」


 麗羽様がまとう光輝が顕現するような錯覚を受ける。

 何皇后の出す魔性とも言える空気を意に介さず……いや、そこにそんなものがないかのごとく受け答えする。

 麗羽様のオーラ、パねぇ。これは光の翼ですよ。むしろオーラバリアかもわからんね。精神攻撃を防ぐからATフィールドではない。


 いや、儀礼的挨拶って当事者以外はこんな感じじゃない?ほら、朝礼で校長先生のお話聞いている時とかさ。


◆◆◆


 特筆すべきはそのあとの宴席だ。ここで前回の訪問時はアクセスできなかった大物と知己を得ることができた。

 漢王朝末期の名将、皇甫嵩である。


 皇甫嵩。

 漢王朝末期の名将である。

 ぶっちゃけると正史で黄巾の乱を治めたのはこの人の力量によるところが非常に大きい。董卓との政争がなければ普通に漢王朝を支え続けたんではなかろうか。

 ふむ、この宴席に来ているということは何進に与するつもりなのだろうか。

 確か宦官とは対立しているはず……というか宦官と組む士大夫がほぼいないという話である。


 爽やかに笑って去る皇甫嵩。

 ふむ。ここで彼と繋がりが出来たのは悪くない。

 少々内向きの権力闘争に淡泊な印象はあるが、その分信頼できるだろう。

 洛陽で組む相手が何進だけとかストレスがマッハだ。


 その後もひっきりなしに袁家と関係を結ぼうという士大夫たちの対応に追われるのだった。

 

「想像以上にすり寄ってきますねえ」

 

 七乃が俺に囁いてくる。


「そうだな。って美羽様は?」

「もう退出してお部屋でおねむです。

 いつもながら寝顔も可愛いですよ?」

「後で覗きに行くか。って違う。

 七乃はどう思う?」

「何がですか?」


 軽く小首をかしげる。


「あまりにもこの場で何進をないがしろにして袁家とのつながりを求める奴が多い」

「んー、こんなもんかな、と思いますよ?

 列席者はこれまで何進さんと宦官の対決を静観してた人たちがほとんどですからね。

 その分、何進さんに媚を売るとか無理じゃないですか?」

「ふむ」

「でも、この場にいるだけでもう何進さんに表舞台に引きずり出されたって感じでしょうねえ。

 うーん、そこに気づいている人はごくごく一握りでしょうねえ」


 なるほどねえ。いや、七乃の分析に納得の俺である。実際七乃ってチートかと思うくらいに有能だからなあ……。

 だから聞いてみようそうしよう。


「その何進を、七乃はどう思う?」


 少し緊張して問う。それに一瞬考える顔をして、七乃は極上の笑顔で答えてきた。


「さあ?美羽様の敵になったら叩き潰す。それだけですが何か?」

「……ぶれないねお前さんは」


 あの化け物に興味がないとか俺には言えない。できるとも思えない。

 いや、七乃VS何進とか洒落にならんから。俺とか巻き添えで死ぬ未来しか見えないから!


 生き残りたい!生き残りたいでござる!

 生存戦略こそ俺の根底であると再認識しました。


 いやまあ、俺は極楽お気楽にアーリーリタイアを目標とするからね。

 初志貫徹、なのである。

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