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凡人と袁家技術部

 さて、ここは魔境。あるいは伏魔殿、或いはもっとおぞましいかもしれない何か。

 ……それとも特異点だろうか。足を踏み入れるのにちょっと躊躇する俺なのである。


「何やいつになく……しょぼくれた顔しとんなー」


 そう、ここは袁家技術開発部直轄特務機関。母流龍九商会の工房である。んで俺の目の前でニヤニヤしてんのは開発主任こと李典、真名を真桜である。

 まずは追求しとこう。俺、責任者兼出資者的な立場だったけど、あれ聞いてないし。


「なんで南皮が要塞みたいになってんの」


 これである。どうせこいつが主導したに決まってるのだ。


「えー?だって最近物騒やん?

 安心を提供するのもうちらの役目と思うんよ」


 つらつらと官僚的答弁を口にするのだ。こいつ……できるぞ。ええい、そういうのは俺の十八番おはこだからな!そういうのが聞きたいわけじゃないっての。

 だから、こっちも身構えた感じでなく素で聞く。


「で、本音は?」

「うちの考えたかっこいい防衛拠点!」


 マジかよ!そんな本音聞きたくなかったよ!

 ――とりあえず……でこぴんを一つくれてやる。ぴしり、とな。


「でへへ、でも、驚いたやろ?」

「そりゃあ、な」


 むしろ度肝を抜かれたというべきである。そらびっくりしたよ。


「何とか二郎はんが帰ってくるまでに仕上げようってみんなで頑張ってんで」


 俺の帰還までに仕上げようというのがモチベーションになるのが謎なんですがねえ……。


「つーか、何でああなったんだ?」

「んー、うちも申請した稟議が通るとは思ってへんかってんけどな。

 現状の城壁の補修くらいでけたらええなあ、と思ったんよ。あわよくば……うち考案の絡繰りを配備したりな。

 ほんで、最初からそれを上申しても規模がちっさくなるやろ?

 やからどーんと南皮要塞化計画をぶちあげたわけや」


 なんというドヤ顔。得意げに胸を張るのでなんというか、目のやり場に困る。困るから釘付けになっちゃうでしょ!

 お尻もいいけどやっぱおっぱいだな!

 そんな俺の視線を知ってか知らずか、真桜は言葉を続ける。


「でも手は抜いてへんで。

 考えられる最悪の敵を想定して、それでも撃退でけるように頑張ったんや。

 正直、どんな大軍が来ても力押しでは落ちへんで」


 どこの大坂城だ。ちなみに大坂城は武力で落ちたことはなかったりする。まさに難攻不落。いや、降伏フラグ建ててどうするよ。


「ふーむ。で、仮想敵はどう設定したの」

「二郎はんやな」


 おい。なんでやねん。俺が仮想敵とかどういうことだ。


「今回は特別顧問として顔良はんに助言頂いたんよ」


 おお、ディフェンスに定評のある顔家か。斗詩は防衛戦が得意って言ってたもんな……寝物語で。


「ほんで、南皮の防衛戦で、誰が攻めてきたら一番厄介かて聞いたんよ」


 うん。……うん?


「それが俺だったということに違和感しかないのだが」


 攻城戦とかしたことないんですがねぇ……。


「せやろか?顔良はん曰く、野戦と違って攻城になったら一番ねちっこく攻めてきそうって言ってはったで」

「……まあ、猪々子とか城壁に突撃とかしそうだしなあ」


 割と苦し紛れな話題反らし。その俺の言に真桜がけらけらと笑う。


「それ、顔良はんも言うてはったわ。

 そういう認識なんやなあ」


 マジか。斗詩もそういう認識なんか。


「あの子、ちょっとアレなところあるからな……」


 しみじみと呟いてしまう。いや、いい子なんだけどね?それに実際の戦場ではそんなことしないと思う。多分。きっと。メイビー。


「まあ、それはええ。ほんで二郎はんならどう攻めてくるかっちゅうことで助言もろうてん」


 ええと、何かおかしい気がするが。うん。うん?


「ほしたらな、まあ、まともには攻めてこんやろっちゅう話やった」

「そりゃそうだ。攻城戦で突撃とかありえん」


 203高地戦は反面教師、小田原攻めが理想かな。それが俺のドクトリンさ(ドクトリンってなんだっけ)。


「まあ、持久戦とか謀略はとりあえず除外したんよ。本筋とずれてまうやん」

「そりゃそうか」


 防衛設備の検討だかんな。って、じゃあ俺関係ないじゃん。ないじゃん。


「ほんで、いざ二郎はんがどう攻めてくるかっちゅうたら、金を湯水のように注いで攻城兵器をぶつけてくるやろうと」

「まあ、妥当だな。金に糸目はつけんだろうさ」


 いや、俺ならそうするだろうけど、それって攻め手が俺の必要ないよね。とか思うんだけども。


「せや、攻城兵器は厄介や。

 門扉や壁が破壊されたらどうすることもでけん。顔良はんにはどうこられたら厄介か助言もろうた。

 いや、参考になったわ」

「まー、拠点防衛は顔家の専門分野だからなあ」


 清楚な美少女が楽し気に語ってくるのが防衛戦術とか、俺も最初は戸惑ったものさね。まあ、斗詩が可愛いから気にしないようにしたけど。気にならなかったけど。


「せや、二人でな、二郎はんならここでこう攻めてくる。

 ここはもっとねちっこく攻めてくるとか想定しててん」

「ちょっと待て、それって斗詩がやられて困ることを想定しただけだよね?

 意外と俺がどうこうって関係ないよね?」


 むしろ俺である必要ないよね?


「ちゃうねん、二郎はんが攻めてくるっちゅうのがええねんやんか。

 ああ、二郎はん、ほんまいけずやわー、とか。ここで二郎はんはこっちから来てまうんやろうなー、ほんまにやらしいわー、とか」


 なんだそのガールズトークっぽいの。こう、言われてる本人としたらさ。もやっとするぞ。


「なんか釈然としないぞ」

「気にしたらあかんって。

 でも、顔良はん、やけに具体的に二郎はんの攻め方を想定してはったなあ。よっぽど息が合っとるちゅうことなんやろうけど」


 は、肌は重ねたけどね!とも言えず。


「ごほん。

 で、それがあの兵器群に繋がるのか?」

「せや、結局一番厄介なんは攻城兵器っちゅうことになってな。

 だったら壊せばええやんか。っちゅうこっちゃ」

「なるほど。対軍というよりは対攻城兵器ってことか。その想定であれば納得だ」


 いや、それでも……あの威容はなあ。各所からクレームくるだろうなあ……。


「せやでー。固定したら命中率とかええ感じに上昇したしな!

 でもそれだけやない。

 対軍としても通用するよう、色々考えとる」

「そっか、お疲れな」


 どこの軍と戦うつもりなんですかねえ。

 とも言えないのよな。かの匈奴大戦では南皮の城壁まで匈奴が押し寄せたそうだし。備えあれば憂いなし。公共事業なんて予算の無駄食いくらいの評価でいいんだと個人的には思います。


「ええんよ。まだ終わってへんし」

「何ですと?」


 これ以上魔改造するというのだろうか。


「最強の盾は創った。お次は最強の矛や。

 この南皮を攻め落とすための方策、ほんで兵器を模索中や。

 墨子が指揮しても落としたる!」

「そっちかよ!」


 想定が防衛戦の達人、墨家のトップとか気宇壮大にもほどがあるわ。

 なお墨家は確か春秋戦国時代に滅んでしまっていたはずだ。結局ストイックすぎたんだよね。

 何事もほどほどが一番なのだよね。


「あー、無理はしないようにな」

「ありがとな、二郎はん。うち、頑張るし!」


 にかり、と笑う真桜。

 ぐ、と握る拳に合わせて震える胸部装甲に目がいったのは無理からぬことだと思う。

 ち、チラ見だからバレてないはずだし……。セーフ。圧倒的にセーフ案件ですよ。


 しかし真桜の胸部装甲の圧倒的戦力はすごかった。あれは孫家のグランドキャニオンたちに単独で勝るとも劣らない。などと沮授と張紘にこの前語ったら……なんとも言えない顔をされたものである。


 解せぬ。

真桜はある意味恋姫で最もチートですよね。

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