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凡人と、はおーの歓待

「あら。久しいわね、紀霊。

 どうして貴方がここにいるのかしらね。

 やっと私に付き従う決心ができたのかしら?」


 世紀末覇王のありがたいお言葉である。うげ、という内心が声に出なかったことに安堵しているくらいにチキンな俺なのである。


「いやそれはないっすわ。

 旅は道連れ、世は情けと申しまして」


 かくかくしかじかと事情をかいつまんで説明する。


「そうね、春蘭と一緒ならば命の危険は減らせるでしょうね。いろいろな意味で。

 それで、わざわざ陳留ここに立ち寄ったのはどうして?」


 うん、流琉がどうなってるか気になっただけなんだすまない。

 などと言えるわけもなく。

 下手に紹介したらこの百合の園に召し上げられてしまう。それは避けたい……避けたくない?


「いや、行きにも寄ったんですけど、挨拶できなかったんでね。これは義理を欠くなと思った次第で」

「ふうん?殊勝な心構えね。

 それならば、そうね。魯粛と虞翻と顧雍をよこしなさいな」


 なんという飛躍。なんという上から目線。なんという人材コレクター。付け加えると美少女のみ選んでるところとかもうね。百合の庭園が咲き誇るわけですよ。


「あげませんってば。別に俺に仕えているわけでもないですし」

「あら残念ね。気が変わったらいつでも言ってちょうだいな」


 流石覇王、人の話聞いてない!


「変わりませんってば」

「で、ここからが本題なのだけれども。

さて。督郵様が何の用かしら?」

「げ」


 悪事千里を走る。違うか。


「あら、知られてないとでも思ったの?

 流石に何進大将軍様とね。どんな密約を結んだかまでは知らないけれども」


 ……あえて「知らない」と断言することで「ひょっとしたら知られているかも」とか色々考えさせる、か。

 密談の相手があの何進じゃなかったらほいほいとブラフに引っかかってたかもしれんなあ。

 ああ、早く南皮に帰って癒されたい。一挙手一投足に神経めぐらせるとか、ストレスがマッハパンチである。

 きっと督郵という、官の不正を暴く地位を得て真っ先に陳留に来たという事実。そこに警戒心がマックスなんだろうな。どうせ後ろ暗いことしてるに決まってる。偏見だけど。

 これが麗羽様相手だったら、俺がどうして督郵という地位を望んだのか、そっから始まってあれこれトークが弾んだろうに。

 いや、優劣じゃなくて、俺との相性っていう話なのである。つまり麗羽様サイコー。現代社会においても、だ。離職の理由の八割は職場の人間関係、信頼関係ですってよ?


「お流石、としか言えないですねえ。

 別に陳留の査察とか考えてませんからご安心を」

「あらそうなの。まあいいわ、春蘭が世話になったようね。

 歓迎するわ」


 ……最初からそれだけで済んだんじゃねえの。よほど後ろ暗いとこがあるのだろうねえ。督郵という地位はそれだけ有効な地位なのだよ。実際。将棋で言ったら銀とか桂馬的な、ね。

 そんな俺の視線を受けて、ふ、と笑い、踵を返して歩き出す曹操。

 こわや、こわや……。

 そんなことを考えながら俺は目の前の料理を腹に納めていた。なんと曹操手ずからの料理だそうである。


◆◆◆


「ふん、あんたなんかに食べさせるには勿体ないわ」

「相変わらず口が悪いな、と俺は思うのだが、表面上は問題にしていないという態度を選択する。ただし思うのだ。

 良家の子女とは思えんぞ」

「なによ、言いたいことがあったら言いなさいよ」

「いや、たった今この場で言ったばかりなんだけど」


 何か探るような目でこちらを見てくるネコミミ。ふはは、深読みしても俺に深慮遠謀なんぞないからな。幽霊の正体が枯れ尾花だと知るがよい。


「まあ、あんたがあの脳筋の世話をしたからこそ華琳様の手料理を口にすることが出来たんだから、あんたの下品な顔を見ないといけないというのは耐え忍ぶことにするわ」

「お、男は見た目じゃないし」

「じゃあなんだって言うのよ」

「金かな」


 思わず本音がポロリである。我ながらに、中々よろしくない答えであった。

 なんとも言えない、微妙な顔でネコミミはため息を漏らす。


「そんなに俺の相手するのが嫌なのかよ」

「勘違いしないでほしいわね。華琳様直々に饗応役を仰せつかったんですもの。

 そこに好悪など存在しないわ」


 え、男嫌いのネコミミに、だ。わざわざ俺の相手を言いつけるとか……。これはもしかして、プレイの一環か?


「ならもちっと愛想よくしろよ」

「嫌よそんなの。どうして私があんたごとき凡才に媚を売らないといけないわけ?」


 ……意外と思われるかもしれないが、このネコミミとの会話はこれで楽しいものだった。字面だけだととんでもない罵詈雑言が混じってる気がするのだが、そこに悪意が存在しないため単なる軽口になっている。

 何せ地頭がいいのだろう。何を言っても当意即妙、いや、流石王佐の才。しかしこれを使いこなせるのは曹操くらいだろうけどね。


「わかればいいのよ。わかったなら跪いてそこの床でもお舐めなさい」

「って靴ですらねえのかよ」


 その発想はなかった。

 まあ、多少の問題はあれども歓談を楽しんでいたのである。となると、自然とこういう話になる。


「それにしても、華琳様の才能を認めない凡百たちには腹が立つわ。

 あんたもそう思うでしょ?」

「いやまあ、そりゃ曹操さんはすごいと思うが……。まだ若いし、仕方ないとこもあんじゃね?」

「いいえ、一刻も早く華琳様はその才能にふさわしい地位へと栄達されるべきなのよ!」

「そうだよなあ……」


 実際、さっさと出世してほしいもんである。そして何進と権力闘争を盛大にすればよろしいねん。


「それで、アンタは華琳様の才能にはどのくらいの地位が相応しいと思うのかしら?」


 ちろり、とこちらを見ながら言ってくる。どこか探るような、胡乱げな視線である。うん、相槌がいいかげんすぎたかもしらん。

 ここは存念を大いに語っておくとしよう。


「んー?ふさわしいとかいうより、丞相くらいなら普通に行くんじゃね?」

「な!」


 だってあの曹操だもんねー。三国志最大の人物ですよ、奥さん。


「ま、普通に漢朝を差配する器だろうさ」


 まあ、あとは簒奪とかに気を付けるのみである。乱世にさえならなければ大丈夫、なはず。きっと多分。メイビー。


 とりあえずはまあ、売官をどうすっかなあ。あれさえなければちっとは楽になりそうなんだが。

そんな難問は俺より頭いい奴らに相談するに限るね。餅は餅屋に。これ最強。


 なんか、唖然とするネコミミにあれこれ言ってたらふく酒を呑ませてやった。もっと言うと、酔いつぶしてやった。

 いや、俺としてはたまにはゆっくりと休息した方がいいのではないかという押しつけがましい親切心だったのだけれども。


 後日曹操に怒られた。お仕事が滞るとのことです。いや、人が一人一日いないだけで影響が出るという現状をどうにかしなさいよ……。


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