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凡人と、旅は道連れ世は世紀末

「だから俺は言ってやったのさ『振り向くな。刻よ止まれ、君は美しい』ってな」

「ふむ、それは気取りすぎというものだろうよ」

「そりゃどうも」


 さて、陳留経由で南皮に帰る旅路である。往路と同じく同行者がいるのである。美女であるのも同じである。だがその中身はまるで違うぜ。


「しかし流石にいい馬を持っているな」

「南船北馬と申しまして、北方のお馬さんは一流なのだ」

「ふむ、そうだな。今度とびきりの馬を用立ててくれ。

 華琳様にふさわしい、駿馬をな!」


 というわけで、曹操さんちの㌧姉こと夏候惇さん――よくわからん経緯で春蘭という真名を貰った――と同行している俺であった。ふ、同行者が彼女なら宦官勢力も手を出しづらかろうという姑息な思惑もあったりする。いや、実際俺の命を狙いそうな勢力ってそこくらいだしな。


「ほいさ。でもいい馬は高いけど?」

「金に糸目は付けないとも。とびきりのを頼む」


 流石は曹家驚異の資金力である。三公の一角を買ったというのは伊達ではないということ。実に気前がいいことだ。ちなみに曹操のお父さんだけどね、買ったのは。


「おうよ。しかし、まさか単騎で洛陽に来てるとは思わなかったわ」

「ん?一人の方が身軽だろう?

 足手まといなんぞいらん」


 うん、実はだ。ある程度の団体なのだろうから、そこに紛れて帰ろうと思ったら……マンツーマンだったでござるの巻。

 まあ、ちょっと脳みそまで筋肉で詰まってそうなとこはあるけど、文句なしの美人だしスタイルもいいしな!馬上でお胸様がたゆんたゆんと揺れる様には――眼福ご馳走様である。


「ふん、視線がずいぶんと露骨だぞ」

「いや、ご立派なお胸様のご威光に目が行くのは仕方ないって。

 気に障ったらすまんが」

「手を出したら切り捨ててやるところだがな。

 この身も心も華琳様に捧げている。

 恩がある故今回は黙って見逃してやろう」

「それはありがたいねえ」


 って、まさか……。

 百合か。百合なのか。なんと非生産的な。


「ってあれか、ひょっとしてあのネコミミ軍師もお手付きだったりする?」

「ふん、あのような貧相な奴など。所詮一時の気まぐれに過ぎん!」


 なんかぷりぷり怒ってらっしゃる。しかし否定してほしかったなあ。割とマジで。


「まあ、そこは知らんわ……しかし寵愛争いとか結構余裕あるのな。

 あ、ちょっとあっちの町に寄ってっていい?」

「少し回り道だぞ?」

「んー、知り合いが知り合いとはぐれた町でさ。

 なんか手がかりがあればいいな、と」

「まあ、構わんぞ」

「あんがとね」


 というわけで行きにちらりと寄った町を再訪する。

 相変わらずさびれてるねー。つか、空気がよどんでいる。


「……ふむ。貴様が寄ろうというからどれほどのものかと思ったのだが……

端的に言って、しけた町だな」

「口に出すなって」

「ふん、華琳様が治めれば見違えるように繁栄するだろうに」

「まあ、そだろね」


 実際そうなのだろうと思う。陳留からも近いし、勢力圏に入るのはそう遠い日ではないと思う。そうなればいいな、と思う。流琉の友達とやらを思って。

 そして、そうなると厄介だな、とも思う。曹操という希代の英雄を思って。


「何だ、わかってるじゃないか!」


 ばしばしと背中をたたいてくる春蘭。痛い。割とマジで痛い。骨すらきしみそうな勢いである。これだから身体能力スペックに恵まれた奴は……。


「しかしまあ、活気というものが見事に存在せん町だわ」

「ああ、幸い飢えてる民は少なそうだが、な。

 これではお前の知り合いの知り合いの知り合い……だったか?

 それを探すのも手間だろうな。そんなに時間はかけられんぞ」


 そう、ここは流琉が知り合いとはぐれた町。そして流琉が店を出そうと思っている町。しかしその未来は相当暗いぞ、おい。


「あー、実は、だな」


 探し人の名前も特徴も知らんと言ったら散々馬鹿にされた。いや、いちいちごもっともではあるのである。そして、一方的に罵られても、その言いようはからっとしていて反感を覚えない。その人格というものに脱帽する。これは人徳と言うべきかな?

 いや、実際すごいんだって。某ネコミミフードのちんちくりんとは雲泥の差である。胸部装甲含めて。


「いやまあ、知り合いが探しに来るっつうからさ。

 町の様子だけでも伝えようかと、ね」


 そう言いながらあちこち見て回る。この町で店出して、ペイするのはきついだろうなあというのが正直な感想なのだ。いやマジで。大変だぞここで事業を成功さすのは……。


◆◆◆


「まったく、だ。あのような辛気臭い町なぞ、さっさと華琳様に支配されるべきなのだ」

「そうだね、その通りだね」


 流した俺の態度に舌打ちを盛大に響かせる春蘭である。


「いや、ね?時間があったら査察とかできるんだけどね。

 とはいえ、そこまで暇でもないからなあ……」


 流石に町のテコ入れとかやってる義理も義務もない。とはいえ、気が滅入るのも確かではあるのだ。などと思っていたのだが。



「おう、私だ!ただいま洛陽より帰参した!

 華琳様へ使いを出せ!」


 ってこの人はほんと天衣無縫。だからなのか、人望は思いのほかあるようである。その声に歓声が湧く。そして。それを他人事として見守る俺の身の振り方であるが。

 さて、それこそ他人のふりして、と。


「どこへ行く二郎!

 さあ、凱旋だ!」

「いや俺曹操さんの配下じゃねえし、凱旋とか意味わかんねえし」

「何だ、細かいことをぐちゃぐちゃとつまらん奴だな。

 いいからついてこい!」


 お断りします。

 ということでさくっと逃げようとしたのだが。知らなかったよ。春蘭からは逃げられない。くそ、これだからフィジカルエリートは……。


 というわけで春蘭についてくしかないのね。

 ああ、民の「誰こいつ?」的な視線が微妙につらたんです。はいはい、俺は添え物だから気にしないでください。できたら探さないでほしかった。


「姉者、お疲れさまだったな」

「うむ、ただいま帰参した。

 息災だったか?」

「おかげさまで大過なく。

 ところで姉者、後ろの御仁は?」

「ん?ああ、まだいたのか。

 洛陽で世話になったのだ。そうだな。紹介しよう。

 二郎!私の妹の秋蘭だ!」

「夏侯淵だ。よろしく頼む」


 いや、まだいたのかとか春蘭が逃してくれんかったんだろうとかいうのは野暮というものだろう。

 しかしマジか。クールビューティきたと思ったら夏侯淵とか。春蘭と秋蘭がいるなら夏蘭とか冬蘭とかもいるんですかねえ……。

 ちょっと俺の扱いがぞんざいすぎるとか思ってたけどまあ、よしとしよう。


「紀霊。袁家に使える紀家の関係者さ。今後ともよろしく」

「姉者が世話になったようだな。感謝する」

「いやいや、何もしてないって」

「ふふ、謙遜することはないさ。

 姉者が真名を許したのだ。私のことも秋蘭と呼んでほしい」


 なんだろう。真名というものはそんな初対面にほいほいと預けるようなもんだっけ?いや、それだけこの姉妹の絆が強固ということなのだろう。たぶん。


「ええと、二郎で。よろしく。

 つーか、俺としてはこれで失礼したいんだが」


 あまり絡みたくないのだよね。微妙に死亡フラグと戯れているような気がして、さ。


「まあ、そう言わないでくれ。

 珍しいのだ。姉者が真名を許すというのはな」

「え。そうなのか」


 それはともかく、曹操とかネコミミに会うのが気まずい現在いかがお過ごしでしょうか。と、Bダッシュのために力を込めていたのですが。


「あら、紀霊じゃないの。どうして貴方がいるのかしら」


 はい、見つかりました。視野の広さは流石です曹操さん。

 つーか自ら春蘭の出迎えに来たのかよ。股肱の臣だからなのか、愛人だからなのか解釈に困りますねえ……。


 しかし、美少女と美少女がキャッキャウフフと戯れるのはこう、絵になるね。


 網膜にレコード機能があればいいのになあとか思いながら俺はいつの間にかいたネコミミ。彼女が淹れてくれた茶をすするのであった。あら美味しい。

 いや、普通に飲んだけど毒とか入ってないだろうな?入ってないよね?

西暦で言えば190年~くらいが三国志の舞台なので世紀末なのです。世紀末なのです。

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